夏が来た!
「あ、ちょうど戻って来ましたわ!」
メンシスと主従ごっこ(※冗談です)をしていた私は、エミリア達の元へと戻った。
そこには、エミリアとアリスに加え、もうひとり男子生徒がいた。
「初めまして、エルザ嬢。僕は、キケロ子爵家のマルクス。仲良くしてね。」
そう言って手を差し出すマルクス。
茶色の髪に茶色の瞳、色は地味だが、整った顔をしており、表情が柔らかいため、可愛らしい印象を与える好青年だ。見た目は。
「おい、マルクス。何のつもりだ。」
差し出した手をメンシスに叩かれる。
「ひどいなぁ、メンシス。僕はただ純粋に、可愛らしい子とお近づきになりたいなって思っただけなのにさ。」
へへっと笑う姿に落ち込む様子はひとつも見当たらない。
「えっと、マルクス様?初めまして、エルザ・アストルムよ。こちらこそ、宜しくね。」
「ありがとう、エルザ嬢。あ、僕のことは気軽にマルクスと呼んでね。」
「お前なぁ。。」
「ん?メンシスに焼かれてもちっとも嬉しくないんだけど。」
「…」
どうやらメンシスは無視することに決めたらしい。それを見たマルクスが楽しそうにケラケラと笑っている。
「あぁそれでね、公爵領のひとつにラクス地方があるだろう?そこにみんなで遊びに行かないかって話をしてたんだ。で、タイミング良く君たちが戻って来たわけだ。」
「え!!行きたいです!」
お前なぁ、いきなり予定を空けられるわけないだろうが、とメンシスが言おうとした瞬間、エルザが即答してしまった。
全員が驚いた表情でエルザを見る。
「エルザ様、大丈夫ですの?その、他のご予定とかは、、」
「うちは領地に行く予定もなく、ずっと王都にいるから時間余ってるのよ。だから、みんなと出掛けられるなら嬉しいわ!」
マルクスがパチンと手を叩き良い音を出す。
「よし、じゃあ決まり!あ、ラクス地方は公爵領と言ってもうちで管理していて、今の時期は父と兄が滞在してるから、別邸もそのまま使えるよ。部屋もたくさんあるし。」
ラクス地方は綺麗な湖が有名な避暑地である。王都から馬車で5時間程度の距離なので人気が高い。
キケロはルード公爵家の分家にあたるため、子爵とは言え、貴族社会での影響力は大きい。メンシスとは幼少期から共に過ごすことが多く、幼馴染のようなものだ。この両家の関係は周知の事実である。
日程はいつが良いかな、滞在は3日間くらい?馬車はひとつでいいよね、うんうん…
と、マルクスがどんどん旅行の話を具体化している隣で、エルザは1人青ざめていた。
え、、旅行?お泊まり?このメンツで?男女混合??しかも3日も!?は!?
先ほどまで、ようやく来た私の夏休み、ひゃっほーいとお花畑状態だった頭の中が一気に更地になる。
え、そもそも私以外の人って仲良いの?
えっと、エミリアとアリスは仲良し、メンシスとマルクスも幼馴染だろうから仲良し、エミリア達とメンシスは??うーん、ほぼ初対面?そもそもメンシスは孤高のイメージだしな、、
あれ、マルクスとあの2人は私たちが来るまでなんで3人でいたんだろう。元から知り合いなのかな??
「えっと、、マルクスとエミリア達はいつ頃から知り合いなのかしら??」
「え?今だよ。さっきメンシスを探しててさ、その途中で声掛けたんだよね。」
ねー!っとエミリアとアリスに笑顔を向ける。2人は微妙な顔で頷いていた。
と、友だち歴浅っ!!!
いや、私も会ってすぐのマルクスの話に乗っかってしまったけどさ。。
なんと言う人たらしマルクス。。
まぁでも悪い人ではないだろうし、保護者役っぽいメンシスもいるし、別邸とはいえ公爵邸にお世話になるんだし、大丈夫、かな。