心臓に悪い
殿下と兄が盛り上がっていると、騒ぎに気付いたエミリアとアリスがこちらにやってきた。
殿下、私、兄を順番に見て2人とも驚きの表情を浮かべる。
そりゃ、兄引き連れて殿下とやり合ってたらびっくりするよね、、、巻き込んでごめん。
「あ、君たちはエルザのお友達の、エミリア嬢に、アリス嬢かな?僕は、アルド・アストルム、いつも妹がお世話になっているね。」
いつもの貴公子スマイルを浮かべて優しく声を掛ける。
さすがは兄、前に話した2人の名前と特徴をしっかりと覚えており、加えて、自然に名前呼びしている、、モテる人はこういうことをサラッとやってのけるからモテるんだろうな。。恐ろしいわ。
そして、近くにいた女子生徒がまた何人か胸を押さえて苦しそうにしている。兄よ、頼むから、もうこれ以上女子の心臓を撃ち抜こうとするのはやめてくれ。
あ、ダメだ。エミリアもやられてるわ…
真っ赤になったエミリアは、両手をギュッと握り締めながら、なんとか言葉を発する。
「あ、、あの、はい、私はルッツ伯爵家の娘、エミリアでございます。エルザ様には大変良くしていただいてます!」
「ええ、私は、ジュード子爵家の娘、アリスですわ。エルザ様のお兄様でいらしたのですね!私はてっきりエルザ様の恋人で、殿下が横恋慕しているのかと、オホホホ。」
いつものように明るく笑うアリス。
ちょ、ちょっと待てーー!!!
妄想は自由だけど、
なぜそれを今声に出した!?
もう!こんなこと周りに聞こえるように言われて、どんな顔したらいいのよ。うう…。
「アリス嬢には僕達が恋仲に見えたのか、とても嬉しいことを言ってくれるじゃないか。うんうん。あぁでも、殿下が横恋慕ねぇ、、それは無理かなぁ。普通に女性ひとり口説き落とせやしないのに、ちょっと想像すらし難いな。ねぇ、お前もそう思うだろう?」
上機嫌のオルドはニコニコと周囲に花を撒き散らしながらとんでもないことを言い出す。
ぎゃああああああああ!!!
なんでそれを私に振るの!?
殿下は横恋慕なんて朝飯前ですよ!ってフォローする?え、これだいぶ失礼じゃない?不誠実な人って言ってるようなもんじゃん!
かと言って、殿下に横恋慕なんて出来ませんよって言ったら、遠回しにヘタレ呼ばわりしてるみたいだし、、
え、どう答えても詰むんだけど、、、
涙目になって頭をフル回転していると、目の前に女神が現れた。
「オルド様、エルザ様を少しお借りしてもよろしいでしょうか。あちらに、エルザ様とお話したいと言っていた女子生徒たちがいましてね、皆んな楽しみに待っているのですよ。」
エミリアという名の女神は、さきほどの赤ら顔を引っ込め、堂々とした口調で話した。ちゃんと、会わせたい相手が女子であることを強調しながら。
「あぁ。友人との交流は大事だからね。エルザ、行っておいで。僕は殿下と話があるから、終わったらそっちに行くよ。」
ひらひらと手を振りながらオルドは快諾した。話があると言われた殿下は見事に顔が青ざめて固まっている。
「お兄様、ではまた後ほど!」
もう余計なことには巻き込まれたくないエルザは、逃げるようにその場を後にした。その時、何か言いたげにこちらを見ていた青い瞳に気付くこともなく。