それぞれの思惑
穏やかな日常が過ぎ、あっという間に夏季休暇に入った。
この学院に宿題という概念はない。各々進路が異なるため、騎士の訓練に励む者、淑女教育を受け直し婚活に備える者、領地経営を学ぶため領地に赴く者、時間の使い方は様々だ。
一方エルザはというと、、
「あぁ、暇だわ。。」
自室で思わず声に出す。
「エルザ様、可愛いお顔が台無しですよ。」
ルルに軽く嗜められる。
だってほんとに暇なんだもん。。
こんな顔にもなるわよ。
特に予定ないし、うちの領土は遊びに行けるような土地じゃないし、そもそも遠すぎるし、義父と兄はいつも通り忙しそうだし、母も義父のサポートと屋敷の仕切りで慌ただしいし。
はぁ。
スマホがあればな、みんなに、今暇?遊ぼうよ!って連絡できるのに。。
いや、うそです。。そんなコミュ力無いから、気軽に誘うなんてできないわ。。無理無理。断られたら泣いちゃう。
「今週末でしたよね、王宮でのパーティー。そこで学友の皆様と一緒にお出かけのご予定でも立てたらいかがですか?」
テキパキと午後のお茶とお菓子をテーブルに並べていく。今日は気温が高いので、フルーツアイスティーだ。柑橘系の爽やかな香りがする。
「そ れ よ !」
対面だったら、話の流れでなんとか誘えるかも。うんうん、暇アピールをしたら向こうから誘ってくれるかもしれないし!
「ふふふ、さっそく楽しみが出来たわ。」
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ここは王宮内にある会議室、1週間後の決戦に備え、勝利を勝ち取るべく、今まさに戦略会議が始まろうとしている。機密事項に該当するため、侍従及び護衛騎士は下がらせ人払い済みだ。
「殿下、まずは殿下が考える勝利条件を教えてください。」
臣下であるはずのアイザックはなぜか主を差し置き、堂々と上座に鎮座している。そしてそれを当たり前のように受け入れているクレメンス殿下。
「そんなもの、エルザ嬢から婚約の承諾をとる、その一択であろう。」
こいつ本物のアホか、、、
アイザックは内心頭を抱える。
「ずいぶんと自信があるようで。何か策でもおありですか?」
とりあえず言い分を聞いてやるか。
「あぁ。王族の正装をまとい、薔薇の花束を用意し、跪いて切実に愛を乞う。女性はこういうのに憧れるのだろう?」
ドヤ顔で言い切った。
聞いてるこっちが恥ずかしい。
「はぁー。いいですか殿下、まずはエルザ嬢に謝罪をして了承を得てください。あの噂で散々迷惑を掛けたのでしょう?そんな相手からの花束なんて受け取りたくないですよ。」
殿下が涙目で頷くまで、何度も何度も口酸っぱく言い聞かせた。これで恐らく半分くらいは理解してもらえただろう。
ほんとにもう、頼むから当日余計なことはしないでほしい。これ以上やらかしたら、必ずあの人が出てくる。
それだけは絶対に阻止したい。
こんなことで国を揺るがすわけにはいかないのだ。