見えない気遣い
私たちは今王室御用達の仕立て屋に来ている。
どうやらここが兄が私に付き合って欲しかった場所らしい。
そしてなぜか私はドレスを試着している。
先ほどのワンピースよりも豪華なそれは、アイボリーの光沢のある生地をベースに、袖はレースで作られており、涼しげな印象を与える。生地は首元まで詰められているが、レースのおかげで重苦しさは感じられない。
背中に添えられた大きなミントグリーンのリボンはエルザのやや明るい栗色の髪と相性がよく、彼女の可愛らしさをより際立たせている。
「とてもよくお似合いですよ。」
目の前のマダムが品良く微笑む。
「あぁ、エルザ。なんて美しいんだ。普段の装いも可憐で魅力的だけど、この豪奢なドレスにも負けない君の美しさはもう僕の知っている言葉では表現できないよ。」
恍惚とした表情でうっとりと褒めてくる兄。
うっ、、、直視できない、、
お兄様、目が痛いです。
早くその無駄にある色気をしまってください、、
今エルザが着ているのは正真正銘彼女のためだけに作られたオートクチュールのドレスだ。
なんと、兄は前もってデザインを作って発注し、密かに仕立てさせていたそうだ。それで今日試着という名の最終チェックのために私が呼ばれたのだった。
え、サイズはどうやって分かったかって??さすがにそこまで変態な兄ではございません。きっとルルあたりが気を利かせて、この前別件で採寸した情報を提供したのでしょう。
え、そうだよね??
うん、余計な詮索はやめよう。
頭を切り替える。
「お兄様、こんな素敵なドレスを私のために作って下ってて本当にありがとうございます。とっても嬉しいですわ!」
かなりびっくりしたけど、素直に嬉しい。
私のためだけの唯一のドレス。
「うんうん、気に入ってくれて嬉しいよ。僕からも御礼を言いたいくらいだよ。今度は、それを来て一緒に出掛けようね。」
「ええ、もちろんですわ!」
仕立て屋を出た後、兄が予約してくれていたカフェに向かった。ちょうどお茶の時間だ。
最近出来た人気のカフェらしく、お店の前にはたくさんの人が並んでいた。予約していた私たちは並ばずにそのまま中に入る。
白と桜色を基調とした店内はとても可愛らしく、ここにいるだけで楽しい気持ちになる。窓際やカウンターの上など至る所に花が飾られていて、とてもお洒落だ。
先ほど注文した、期間限定のフレーバーティーとケーキスタンドが運ばれてくる。
「お兄様、今日は本当にありがとうございました。髪飾りもドレスも大切にしますわ。」
「こちらこそ、僕も久しぶりに元気なエルザを見れて安心したよ。」
「え…??」
「入学してからずっと元気がなかっただろう?学院の話も何ひとつ聞かせてくれはしないし。兄はとても心配していたんだよ?」
茶化すようにぱちりとウインクをする兄。
あ…わたし、、何も言ってなかった。
クラスでのこと知られたく無くて何も話せなかった。そりゃ不自然だったよね、、
気付いていたのに、
何も聞かないでいてくれたんだ。
それは心配だったよね…
なんという気遣いだろう。
あぁ、兄には敵わないな。。
今日も私が喜ぶことばかりしてくれて、シスコンを通り越した振る舞いもきっと兄なりに励ましてくれていたんだね。
なのに、兄の将来が心配だなんて余計なことを思ってしまった妹です、、ごめんなさい!!
こんなに格好よくて強くて気遣いが出来る素敵な人なのだから、将来兄の奥さんになる人は間違いなく幸せになれるだろう。
「ごめんなさい!お兄様の気持ちも知らずに私ったら…。お兄様がいてくれるから、私はもう大丈夫です。ご心配をお掛けしました!本当に、私には勿体無いくらい素敵なお兄様です。こんな素敵なお兄様の将来のお嫁さんは幸せ者間違いなしですわね!」
「ん?僕にはエルザがいればもう十分だよ。」
至極当然のことのように笑顔の兄が言う。
、、、で す よ ね !
うん、やっぱり安定のシスコン大魔王でした。