御礼がしたい
「いた!!」
放課後、図書館の自習スペースに、探し人を見つけたエルザは嬉しさのあまり声に出す。
銀髪の彼は、エルザの声に反応して読みかけの本からゆっくりと視線を上に向ける。
そこにちょうどよく西日が当たり、髪が煌めく。
「今日は元気そうだな。」
そういう彼も、いつもより明るい声色だとエルザは感じた。
いつもと言っても、お互い言葉を交わすのはまだ3回目くらいだが、その違和感には2人ともまだ気付いていない。
「メンシス様のおかげなの。あなたのアドバイスがあったから、今こうして笑っていられるのよ。本当にありがとう。」
「まさか、教師の立ち会いのもとクラス全員に宣戦布告をするとは思わなかったが。意外に好戦的なんだな。」
ふふ、とメンシスはおかしそうに言う。
「は??何よそれ。私は歴とした平和主義者よ!って、なんで知ってるの??というか、事実とだいぶ違うし!仲良くしてねってみんなにお願いしただけよ。無駄な争いなんてしたくないもの。」
混乱で話し言葉が混ざる。
「ま、あくまでも噂で耳にしただけだからな。そういうことにしといてやるよ。」
もう!なんなのよ。みんなして噂話ばっかり。
壁に耳やら目やらあり過ぎでしょうよ。。
自分も貴族だけど、ご貴族様のこういうところほんと嫌になるわ。
脳内でイライラする私に、ひどく優しい声が届く。
「よく、頑張ったな。」
「え、、、?」
不意打ちに言葉が出てこない。
しばし固まる私。
数秒ほどで我にかえる。
が、意識が戻っても混乱は収まらない。
え、ええええええええええええ!!!
な、なにこれ、ものすごく照れるんですけど!
「あ、ありがとうございます…」
思い切り横を向いて、両手で顔を隠しながらなんとか返事をする。
ほんと、不意打ちとかやめてほしい。。
顔を背けていたエルザは気付かなかったが、思い切り照れている姿を見た彼も同じように頬を赤く染めていた。
その後、ひと足先に回復したメンシスが問いかける。
「そう言えば、俺を探していたようだったけれど、なにか用でもあったか?」
あ!そうだった!
私メンシス様のこと探してたんだった。
御礼をしようと思って度々図書館を覗いていたが中々タイミングが合わず、ようやく今日見つけることが出来たのだ。
「あ、そうだった!その、この前の御礼をしたくて。カバンも頂いてしまったし。。公爵家には劣るから、相応の御礼ができるとは思えないけど、、少しでも何か私に出来ることあるかしら??」
メンシスは一瞬思考する。
「そうだな、、、今後俺に敬称は付けなくていい。」
は…??
「ごめんなさい、ちょっと意味がわからないわ。」
いや、ちょっとじゃないです。嘘つきました。
たまに炸裂する兄の美辞麗句砲並みに意味が分かりません。。
「今後俺のことは様をつけずにメンシスと呼ぶこと。それを御礼として享受しよう。」
そう言いながら机に頬杖を付いて、どうだと言わんばかりに首を傾けてニヤリと笑みを浮かべるメンシス。
は、はいいいいいいいいいいい!?
エルザは、今度はたっぷり数十秒固まり、思考が回復するまでには更に時間が掛かった。