欲しかった言葉
体感にして5分ほど、本当にメンシスは戻ってきた。
「これを使え。」
相変わらず素っ気ない言葉遣いだが、こんなほぼ初対面の私に気を遣ってくれるなんて、とてつもなく良い人だ。あまりの優しさに泣けてくる。
目に涙を浮かべながら丁重にお礼を言って、差し出してくれたタオルを手に取ろうとして驚愕する。
「はぁっ!?」
涙は引っ込んだ。そして素が出た。
「こ、これ、、、なんで!?」
目の前に差し出されたのは、タオルではなく、新品の学院指定の通学カバンだった。
男子と女子でデザインが異なり、女子用のカバンは、一回り小さく焦げ茶色の革素材で出来ている。取手部分は手に優しく、シルク地で覆われている。布地には金色の刺繍が施され、高級感が滲み出ている。
そう、見た目から分かる通り、ものすごくお高いのだ。前世で言う、ハイブランドのバッグと同じくらいの値段がする。
間違いなく、ふらっと他人に渡していい代物ではない。
「こ、こんな高いの頂けません!!!」
思わず、人様の好意を完全に無視して全力でつっ返す。
「いや、返されても使い道ないし、むしろ困る。いいから使えよ。」
うーん、、たしかに。女性用だもんね。
でもこれもらうのはさすがにちょっとな、、
気が引ける。
逡巡している私を見て、
はぁ、とため息を吐き、メンシスは言う。
「お前は何も悪くないんだから、もう黙って受け取れ。別にバチなんて当たらない。」
あ…
私が欲しかった言葉。
あぁダメだ涙腺が崩壊する。
「あ、ありがとうございます、メンシス様。」
涙を堪えて今度は素直にお礼を言う。
私のために彼が差し出してくれたカバンを改めて手に取る。
ありがとう。ありがとう。ありがとう。
心の中で何度もお礼を言った。
にしてもこれ金貨何十枚という値段よね、、
お金のことを思い出し、一瞬で現実に戻る。
そんな大金いつも持ち歩いてるのかしら。
さすがは筆頭公爵家、、、ちょっと怖い。
あれ?でも今は手ぶらだよね?
胸ポケットとかに金貨入れて歩いてるのかしら。
じゃらじゃらとものすごい音がしそうだ。
「ちょっと、ジャンプとかして欲しいかも。」
「お前、何言ってるんだ?」
はっ!!!!
また声に出てたーーーー!!!
流石に言えません。
なのに、何度も真剣な顔で問い詰めてくるので、結局正直に白状しました。
うん、助けてくれた恩人だしね、ハイ。
それを聞いたメンシスは、後ろを向いて更には顔を手で隠し、肩を震わせていた。
あれ絶対笑ってたよね??