殿下と側近
「だから言ったでしょう?渡しもしない薔薇の花束を持ってこそこそ追いかけて見つめるだけでは、好意も何も伝わりはしませんよって。むしろ嫌われます。」
辛辣な言葉を向けられているのは、この国の王太子殿下である、クレメンス・ルーメン。
黙っていれば、どこからどう見ても王子の風貌である。そう、黙ってさえいれば。
当人は、生徒会室にある広々としたテーブルの上に肘をついて両手を組み、苦痛に耐える表情をしている。それはまるで、為政者が国民のために苦渋の決断をしようとしているかの如く。
実際には、側近から恋愛指南という名のダメ出しをくらって凹んでいるだけである。
「いや、あれはだな、、、今度こそちゃんと婚約の返事をもらいに行こうとしているだけなのだが、、中々タイミングが合わずでだな。。いつ出会す分からないから、機会を無駄にせぬよう花束を持ち歩いていただけなのだ。」
こいつ、、自分がヘタレであると言い切ったな。しかも、偶然に出会うのを待ち続けるって、、それプロポーズの返事をもらうためにすることじゃないだろ。
どのタイミングでも綺麗な花束を渡せるように、日に何度も取り替えている。私はちゃんと気遣いが出来る男なのだぞ。いつ会うか分からないからな、ははは。
と明後日の方向にひどい言い訳をしてくる殿下を軽く無視する。
はぁー。思わずため息が出る。
公務を完璧にこなし、自分以外の臣下の前での振る舞いは大したもので、皆を自らの意思でひれ伏ささせるほどのカリスマ性を待ち、為政者としての威厳を感じさせる。
それでいて、あの風貌だ。
金髪碧眼の麗しい我が君。王になるべく生まれた唯一の御方。
しかし、恋愛下手過ぎる。。。。
これ以上は王家の存続に関わる。
仕方がない、うまく誘導するか、、。
「殿下、今エルザ嬢が周りからどんな噂をされているかご存知ですか?」
この国の安寧のためにも年内にはケリを付けたい。殿下、頑張って私の思い通りに動いて下さいね?
アイザックは心の中でそう呟く。