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四話 旅立ち

 俺は、ユアさんをなんとか村に連れて帰ることができた。司祭や屋敷の者たちと共に傷の手当てをし、寝台に寝かせた。

 それから、急いであの丘に戻った。だが、そこに残っていたのは雨によって薄まった血溜まりと、一振りの単棒だけだった。

 何度探しても、あの奴隷、リェムの姿はどこにもなかった。


 リェムは、はっきり言って気に入らないやつだった。奴隷のくせに、俺に対して全く敬意を払わないからだ。

 だが、あいつはただの奴隷じゃなかった。とんでもなく強くて、賢くて、勇気があるやつだった。

 いや、ほかの奴隷たちだって、きっとどこかしら、見るところがあるのだろう。これからは、奴隷や賎民だからと相手を下に見ず、きちんと相手を見るようにしよう。

 俺が強ければ、きっとユアのお父さんも、リェムも、死なずに済んだのだろうか。

 いや、出来なかったことを考えてもしょうがない。全てはこれからだ。そう思いながら、俺はまだ目を覚さないユアさんの看病を続ける。


 顔を何かに舐められている。やめろ、と声に出して、僕は目を開ける。

 「ここは…?」

 多分、どこかの森だ。そして、顔を舐められたと思ったのは、木の葉から滴ってきた水滴のせいだったらしい。

 服はボロボロで、今の僕は半分裸みたいな状態だ。

 「そうだった…」

 僕はあの時、自分が闇の力に呑み込まれつつあることに気づいていた。だから、あの場を離れようとして、斜面を滑り落ちたのだ。

 左腕を見る。確かに、紫色の筋のようなものがうっすらと見えるが、意識を失う前より少ないし、色も薄い。

 それに、僕は今、正気だ。間違いなく死ぬと思っていたのにピンピンしていたのには流石に動揺してはいるが。

 「闇の力を受けても、平気な人間もいるってことか?」

 しかし、確証はない。だから、村には戻れない。それに、おっさんはもういない。あの村に僕の居場所は無いのだ。

 ユアのことを思う。彼女は、助かっただろうか。ロネに託したのは賭けだった。アイツは頼りない坊やだったが、なかなかに勇気ある若者だった。きっと、無事に村に辿り着いただろう。

 少し、寂しいとは感じる。だが、取り戻せないモノに執着しても仕方がない。かつて、奴隷市場から逃げ出したあの日のようだ、と思う。

 「また、うまく生き延びてみせるさ」

 とりあえずは、この森を抜けて、新しい服を調達しよう。そう決めて、僕は獣道を歩き始めた。

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