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第一話 焚き火の夜

 …夢を見た。

 遠い昔の夢を。


 目が覚めると、馬車に乗せられていた。

 まだ小さい子供だった僕だけれど、状況はすぐに理解した。

 僕は、売られたのだ、と。

 重税と不作が重なった、歴史に残る大飢饉。僕自身、ここしばらく雑草しか食べていない。

 別に、絶望はなかった。僕は身体があまり強くなかったし、しかも両親はかなり前に野獣に殺されていた。だから、真っ先に切り捨てられるのは僕だと、薄々勘づいていた。

 僕は奴隷市場に送られたが、なかなか買い手が見つからず、最終的に市場の雑用係として使われることになった。

 環境はお世辞にも良くなかったが、僕は文句一つ言わずに働いた。死体の処理をやった日もあった。逃げようとは思わなかった。

 仕事への態度がある程度評価されたのだろう。古くて堅いパンに雑草と、粗食ばかりで量も少なかったが、とにかく僕は数年、生き延びることができた。


 どれだけ経ったか忘れた頃。盗賊が市場を襲った。

 「かわいいガキだな、ヒヒッ」

 短剣を持ってゆっくりとにじり寄ってくる男を目にして、咄嗟に身体が動いた。

 「目が、ちきしょう、このクソガキ!」

 男が左目を押さえてうめいている。僕の手には、血がついた木の棒が握られている。

 コイツ、殺せる。そう思った僕は男の取り落とした短剣を拾い上げ、首筋に突き刺した。

 なぜかは分からない。背筋を嫌な汗が伝う。僕は男の亡骸に背を向けて、必死に走った。細い路地を抜け、大通りを駆け、気がついたら、知らない道に突っ立っていた。

 「ここ、どこだよ」

 僕は一人でそう問う。自分がどのような道を通ってきたのか、さっぱりわからない。

 とりあえず、僕は1日ほど、道なりに歩いてみた。初めての殺しと、今までしたこともなかった全力疾走。

 あまり丈夫じゃない上に、栄養状態もあまり良くなかった。身体が動かなくなりつつある。

 「おーい、少年。そこで何してるんだ?」

 僕は振り返り、声の主に短剣を向ける。

 「ほーう、いい目をしてるねぇ」

 短剣を蹴り飛ばされた。戦う気力など、もうどこにもない。僕は死を覚悟する。

 「当ててやろう。逃亡奴隷だろ?加えて、行くあてもなく餓死寸前って感じか。ついてくるか?」

 どうやら、男には殺意はないらしい。加えてここにいても死ぬだけ、僕に選択肢はなかった。僕は重い脚を引きずって、男についていった。


 「あと3日は歩くからな、しっかり食え」

 「なんで馬車使わないんだよ、おっさん。ていうか、この干し肉まっず」

 「金がねえんだよ。文句があるなら置いてくぞ」

 焚き火を囲んで、夕食を取る。炎の温もりが、疲れた体に染み渡っていく。

 「おっさん、仕事何やってんの?」

 「今は用心棒が主だな。前は強盗とかもやってたが」

 「完璧にならず者じゃねえか」

 こうして、誰かと話しながら食事をとるなんて、いつぶりだろうか。もはや顔も名前も思い出せないけれど、昔の僕は家族とこんな時間を過ごしてしたのだろうか。

 「言うねえ。少年、名前はあるか?」

 「リェム」

 へえ、とおっさんは悪い笑みを浮かべる。僕が持っている両親の形見は、この名前だけだ。だから、誰にも名前を聞かれなくても、僕はずっとこの名前を記憶し続けてきた。

 「俺はアメロだ。色々こき使ってやるから、覚悟しとけよ」

 そう言って、おっさんは僕の頭を無茶苦茶に撫でた。


 目が覚める。洞窟の入り口から、光が漏れてきている。

 晴れた朝か。悪くない。昨夜の焚き火は燃え尽き、白い灰となっている。

 その跡を見て、夢の中身を思い出す。

 結局、3日どころか1週間歩かされたことを思い出す。辛い記憶だったはずだが、時が過ぎると、笑えてしまう。

 人生とは、不思議なものだ。

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