プロローグ-文庫 三歩-②
登山、初心者、必需品、検索。
コンビニに到着した僕は、スマホを片手に思案を巡らせていた。
「リュックサック……レイヤリング?
あぁ、重ね着ね」
ここ最近だとコンビニにはなんでも揃ってるなんて騒がれちゃいるが、そんなことはないな。
登山用具なんて揃いやしない。
というか燃えて灰となった山に入れるのかすら怪しいし、入れたとして人が登れるような道はあるのか。
問題だらけだな。
もし立ち入り禁止なら、どうにかして入る方法を考えねばならん。
出雲山と検索しても、山火事が起きたという記事やら報道やらは見かけるが、その後どうなったかまでは分からなかった。
こんなに調べもの下手くそだったかな、僕。
「うーん。1度出直すか」
「何をボソボソと呟いて突っ立ってんですか?
邪魔なのでどいて下さい」
「おいおい客に対してそれはないだろう。
それに、見たところ僕以外に客はいないようだが」
「お客様のお帰りでーす!」
「コンビニでそれあんま言わんよ。芦村」
レジの中からお客様に対して難癖をつけて絡んでくる彼女は、芦村 吉奈。
僕と同じ国際芸術日比谷大学へと通う一年生であり、僕と違い最上位クラスの中堅である。
学内1番人気の研究会である『弥勒会』にも所属している彼女が、なぜ僕なんかと交友関係を結んでいるのかは以前不明です。
「そういえば芦村。お前確かアウトドア専門の活動サークルに参加してなかったっけ?
ほら、他大学の学生も含めた。
なんだっけ、インカレサークルだったか」
「そうだね。活動自体は入念な計画を練ってからの月一ペースだけど。
それがどうかしたの?」
「登山って経験あるか?」
「キャンプをしに麓までってのはあったけど、本格的なのはないわね。
なにあんた。登山に興味あるの?」
こいつにはあまり詳しいことは話したくないんだよな。
油断していると私もついて行くなんて展開になりかねない。
それだけはだめだ。
良くない。
芦村が一体どこで僕のことを認知したのかは定かではないけれど、僕の方は多分芦村が思っているよりだいぶ前から知っているのだ。
国際芸術日比谷大学には『学科』が存在しない。
そのため入試当日は全受験生が同じ試験内容に挑むこととなる。
その日僕は芦村 吉奈が描いた1枚の絵を見た。
そして感じた。
芦村 吉奈の熱量を。
多分、今その絵を見てもまったく同じ感想を抱くと思うが。
あれは異常だ。
人の形じゃなかったら間違いなく国が指定する危険物として扱われていたはず。
少なくとも僕は近づきたくない。
こいつがこんなにも人懐っこい性格じゃなかったらの話。
だからここは。
「興味というか、まぁ課題の一環だよ。
夏休みの特別創作課題。
さっき先生から電話が来て、それ言われてさ。
芦村はどうするつもりなんだ?」
「え?課題?……あ、あー!課題ね。
それで登山?勤勉なこったねまったく」
こいつほんとに分かってるのか?
適当に喋ってるんじゃないだろうな。
「私の方はまぁぼちぼちね。適当にやるよ」
くっ、天才め!
「もういいや。一回帰るよ。
そのインカレサークルを見習って、僕も入念に計画を立てるさ」
「あ、ちょっと待って。どうせなら私も」
「絶対!絶対に来るんじゃあない!」
「そんな食い気味に言わなくてもいいじゃない!けち!」
けち!じゃねぇよ。
可愛くねぇんだよ。
むしろ怖いよ。
「でも明日はやめてね。用事があるの」
「芦村の予定は聞いてない。合わせようとするな。
合わさせようとするな!僕に!
それに、明日に限らず用事だらけじゃないか。
どこにでもいやがって」
「人のことを量産型みたい言わないでよ。失礼ね。
でも明日は特別なの。
友達がね、会いに来るの」
「へー良いじゃん。その友達にもよろしく。
じゃあね。僕はこれで」
「待った!」
なんですか?
まだ何か用?
やめて下さい許して下さい!
「1つアドバイス」
ここに来て助言とは。
天才様も中々人の心を分かってるじゃないですか。
いいでしょう。
甘んじて受け入れようともそのアドバイス。
「厚着した方がいいよ」
「それもう見たわ。じゃあね」
「えー!そんなぁ!あ、コーラおひとついかがですか?」
「1つお願いします」