ダイエットをするつもりが最悪ヒロインたちに振り回されているんだが
「買ってしまった………」
まさか大学生にもなって、金髪ツインテールのロリ巨乳が自分のドストライクだったなんて、そんな恥ずかしい性癖知りたくなかった。
気ままな猫みたいにふらりと入ったゲーム販売店。いかにもアニメ絵なお目々くりくりの金髪美少女のパッケージ。
新! トキメキ♡トレーニング。
パッケージにあるタイトルこそも怪しいが、おそらく今、このゲームの名を知らぬ者は、タブレットを逆さまにして首を捻る類のじいさんばあさんじゃない限りは、決していないはず。
話を遡ること五年前、絶大な人気と中毒性のあまり販売中止となった問題作のダイエットゲームが、当時、口を開けば話題となっていた。
あの時俺は、まだ部活真っ盛りの中学生だったから、ダイエットなんて年頃の女子がやるもんだろうと、ニュースを横目に見るだけで無縁を装っていたのだが。
ゲームに没頭するあまり拒食症になっただの、でっぷり体型が売りの女性芸人が激痩せしてモデルデビューしただの、完売したのちに中古車を買える額の値段で転売されてるだの、その世間をざわつかせた社会現象は、横目で見るだけでも瞼と脳裏によく焼き付けられたわけだ。
そして、五年後。裏金の力を使ったのか知らないし知りたくもないが、修正を加えたのちに、禁断のゲームが解禁されたという。
修正、と言っても、システムは五年前とほぼ同じ。
人気声優が声を当てた美少女、またはイケメンのトレーナーが、身振り手振り口振りで筋トレの指導をしてくれるもの。
言ってしまうと、恋愛シミュレーションと、筋力トレーニングが混合された何とも魅惑的なゲームだとか。
流行り物をチラ見してみるか、なんていう軽いノリだった。
さらには部活を辞めて半年、腹周りの肉が気になってきたな、という現状もあった。
しかし数十秒後、この萌え炸裂な金髪美少女の上目遣いに視線も心も奪われるとは、想定外。
(こんな可愛い子と、ダイエットできんのかぁ……)
と、胸中でニヒルな笑みを浮かべていたら、気付けば店員の「ありがとうございましたー」の一言が耳に過ぎり、目がぱちくり。
無意識で七千円も消費するとは、俺も相当疲れていたのか。もしかして、胸中だけでなく剥き出しに笑っていたのか。何て羞恥の極みだ。
何にしても、ダイエットの神とやらは、案外いたずらな不意打ちを食らわすみたいだ。
よし、こうなったからには、一目惚れした美少女と共に痩せてやろうじゃないか。
思い立ったが吉日! 家に帰って速攻ジャージに着替え、ゲームソフトを取り出して、テレビゲーム機に差し込んだ。
卵型のコントローラーを二つ、両手に握る。質量は軽いが、センサーを通してテレビと連携し、振動機能もあってあらゆる動きも臨場感丸出しで楽しめる、特にスポーツジャンルでは、ついつい壁にぶつけてしまうほど操作に酔いしれてしまう活躍ぶりだ。
『ようこそ! 新! トキメキ♡トレーニングへ!』
おっ、始まったみたいだ。すでに期待で汗ばんだ手をズボンで拭い、コントローラーを握り直した。
『このゲームは、あなたの理想のトレーナーとトキメキを感じながら、あなたのペースで広範囲なトレーニングができます。目標に向かって、一緒に頑張っていきましょう!』
ダメだ、まだナレーションだけなのに、ニヤついてしまっている。平常心、平常心。
『あなたのニックネームを入力してください。トレーナーが呼んでくれます』
おぉ、そんな機能もあるのか。人気声優ばかりだし、それはありがたい。これといったあだ名もないので、そのままにするか。タカユキっ、と。
『あなたの今の体重と、目標の体重を入力してください。トレーニングの難易度も、選んでください』
なるほど。これによってトレーニング内容も変わるわけか。思い返せば、ここのところ随分と運動をサボってきたし、そのツケが回ってきたのか友達にもからかわれるほどお腹もぽっこり。できることなら、短期間でうんと痩せて周りとあっと驚かせたい。正直な体重と理想の体重を入力したあとに、難易度はむずかしい、の上、鬼モードを押してみる。
『それでは、理想のトレーナーを選んでください。もちろん、トレーナーは後からでも変更できます』
ついに来たか………。思わず込み上げてきた唾液をごくりと喉に押しやった。
男性か、女性か。男性ならイケメンで、女性なら美少女。もちろん、女性っ、と………。
『では、お好きな美少女を選んでください』
いや、まさに状況的にはその通りなんだけど、何か急に淫靡な響きになったな………。これ、絶対に子供がやっちゃダメなやつだ。
と、理性が冷静に語ろうとするが、ぶんぶんと首を横に振る。淫靡が何だ。一応、恋愛シミュレーションなんだし、自分は十八歳の大学生なんだし、例え二次元だろうが、色恋の一つや二つ、楽しむべきだ。あぁ、こういう時、一人暮らしでよかったなぁって思う。家族になんて見られたら軽く死ねるな。
「あっ、この子だ………」
俺のドストライク。金髪ツインテールの、ロリ巨乳! ピンク色のジャージもガーリーで可愛いな。ぜひこの子とダイエットしたい! 迷うことなく、スティックボタンを回して、カーソルを頭の金髪に合わせて………ポチッと。
『ちょっと、馴れ馴れしく触らないでくれる?』
「え?」
『今日からビシバシ鍛えてあげるから、覚悟しなさいよね! この豚!』
えっ、何だこのキャラ! 甘くて高い声にうっとりして聞き流しそうになったけど、豚とか言われなかったか? 表情も無愛想というか、不機嫌丸出しだし………これは萌えアニメの定番ヒロインのツンデレときたか。まぁ、ツンデレはいいんだけど、豚は言い過ぎな気が………鬼モードが関係しているのか?
『自己紹介しとくわ。あたしの名前は近松門左衛門よ!』
いや、名前! おかしいだろ! 金髪美少女に近松門左衛門はないだろ! 歴史人物にしてもなぜ彼を選んだ!? …………ダメだ。小学校の授業で習った印象はあるけど、何した人か具体的に思い出せない。
『気安く門左衛門って呼んでじゃないわよ!』
呼んでないっ! 呼びたくもないっ!
『さっさと始めるわよ! 豚!』
こっちは名前すら呼ばれてないっ!
と、理想を裏切られて非常に不本意ながらも、門左衛門とのトレーニングが始まったのだ。
『何てだらしない体なの!? あんたみたいな豚野郎は、一日三食酢昆布で、腕立て伏せ百回よ!』
「死ぬわっ!」
思わずツッコみが声に出た。
食事管理もありますとはパッケージの裏にも書いていたけど、酢昆布はないだろ。せめて野菜を摂らせてくれ。
『ほらっ! さっさとコントローラー腕に固定して、腕立て伏せしなさい豚!』
「ええっ………いきなりぃ?」
『豚の分際で文句言ってんじゃないわよ!!』
「えっ、何で通じてんの? 怖いっ!」
門左衛門のツッコみ返しに、唖然と目を見開きつつも、これは従わざるを得ない状況。
言われた通りコントローラーのストラップを腕に固定し、久方ぶりの腕立て伏せが始まった。
「はぁ………はぁ……」
予想以上に、辛い。バスケ部だった高校の時と比べると、明らかにペースも遅いし、息も上がるし、体を持ち上げる勢いも弱い。
『持ち上げる時に、腰を曲げんじゃないわよ!? 頭から足先までを常に直線状に維持することがポイントよ!』
ああ、ようやくトレーナーらしい指示がきたな。相変わらずトゲのある口調だけど、ごもっともだ。持ち上げる際に意識しつつ、続ける。
「はぁ………はぁ……」
『ハァハァ言ってんじゃないわよキモイ!!』
「いや不可抗力! ってか何で声届いてんだ!?」
ツッコみに勢い余って、素っ頓狂にもべちゃん! と床に腹がついてしまった。
『何体勢崩してんのよ!!』
これはコントローラーが反応したのだろう、門左衛門の叱咤が飛んだ。
『罰として酢昆布咥えて三回回ってブヒっ! よ! できなかったら食べるラー油ぶっかけるから!!』
何だその新手の罰は! どんだけ酢昆布食わせたいんだ!? あと食べるラー油とか食欲そそるから言うなっ!
ああ! もう頭にきた。これはツンの範囲をぶち抜いたただの暴力ヒロインだ。どうやら俺は面食いなだけで、二次元ヒロインの見る目がなかったようだ。一目惚れなんて恋心、罵声を浴びた分呆気なく砕け散ってしまった。
「もうトレーナー変えてやる」
『え………』
決心を声にも出して、ストラップを解いてコントローラーを握ると、何やら門左衛門がうつむいて小刻みに震えている。
『変えちゃうの………?』
覇気のなくした震えた声。
これは………まさか………ここでくるのか?
ないと思っていたデレが!?
『ゆる………さない………』
「え?」
ビキビキっ、と画面越しの美少女の白い肌がひび割れ、肉が怒張し、弾けるようにジャージが破けた。
刹那、美少女から一変、赤黒い皮膚に猛々しい筋肉が盛り上がった巨体が画面を埋めつくし、同時にコントローラーの振動が悲鳴を上げた。
「えっ、何!? 何!?」
『うグォォオオアアアアアアアア!!』
美少女のミルキーボイスから激変、獣のような低くドスの効いた咆哮が響くと、その声を発した口から牙が剥き、鮮血の如く真っ赤な双眸がギラつき、頭部からぐわん! と二本の黒いツノが突き上がった。
おめでとうございます! と場違いなナレーションが流れる。
『近松門左衛門が鬼モードに覚醒しました!』
「えっ、鬼モードってそういう!? 物理的な!? いやいや! 何のゲームだよ!?」
どうやらこのゴリマッチョの鬼は、かつて一目惚れした金髪美少女、門左衛門で違いないようだ。
金髪という共通点しか見つからないほど、原形を留めないバケモノに変貌してしまったが。
あれ、これ、一応恋愛シミュレーションのダイエットゲームだよな?
バケモノの口が重々しく開くと、
『コロス………ニンゲン………クウ………』
「怖い怖いっ!! ゾンビゲームかよ!? あーもう無理っ! 怖いっ! 交代っ! 交代っ!」
新手の恐怖に戦慄く指でボタンを連打しまくり、とにかくこのバケモノから逃れようと、死に物狂いでボタンを押し続けると、
『トレーナーを交代します』
と、ナレーションが手を差し伸べてくれたようだ。
気付いたら、色んな意味で汗だくだった。
何だったんだあの怪奇現象は。何者だったんだ門左衛門は。俺は一体、何を見せられていたのか。
眩暈がするほど思考がぐるぐる回りつつ、ふと、画面までぐるぐる回っていることに小首を傾げた。
『それでは、トレーナーをランダムで選びます』
「何でランダム!? 選ばせてくれるんじゃないのかよ!?」
ナレーションよ、最初の約束を破棄しまくってるぞ! こいつまで鬼モードなのか?
『トレーナーが伊能忠敬に決まりました』
だから名前っ! その萌えをドブに捨てたネーミングセンス何とかしろっ! ………ああ、でもその人は知ってる。地図作った人だ。
に、しても、明らかに伊能忠敬ってキャラじゃないだろ、この子。黒髪ボブの美少女だし、小柄でダボっとしたジャージの萌え袖から細い指が覗いているし、もっと可愛い名前がふさわしいはずだ。
『お兄ちゃん………よろしくね………忠敬だよ………』
何と。妹キャラときたか。ベビーフェイスにロリ声で、これはこれで頷けるんだけど………ニックネーム設定ガン無視されてないか? まぁ、門左衛門よりは優しそうだし……いいか。
『ねぇねぇお兄ちゃん………お兄ちゃんは何でダイエットを始めたの………?』
「え………?」
『忠敬に、教えて……?』
ああ、クソ。こてんと首を傾げる仕草、すごい萌えるのに、名前のせいで色々台無しだ。今、脳裏にあのおじさんの顔がこびり付いて離れない。
『お兄ちゃぁん……教えてよぉ?』
「あー………周りを驚かせたいっていうか………」
『まわり?』
「友達とか、女の子とかに、見返してやりたいっていうか………」
『おん、な?』
不意に、舌の先まで凍るような、冷え切った声。
ゆらり、と、忠敬が首を揺らすと、丸い瞳が光をなくし、淀んだ眼差しをこちらに縫い付ける。
『お兄ちゃんは………忠敬だけの、お兄ちゃんだよ……他の女はいらない………』
こ、れは! まさかの妹に加えてヤンデレ属性ときたか!? ゴゴゴ、と画面の奥から闇のオーラを纏う忠敬に、思わず胸がどきつく。
ヤンデレってことは、このまま二人きりの地下室で監禁拘束されたりとか!? そこからみっちりダイエットコースが始まるとか!? いやいや、別に変に期待してるわけじゃないけど、この展開は気になるだろ!
『ゆる………さない………』
「え?」
ビキビキっ、と嫌な音が再び鼓膜を突き抜けたかと思うと、美少女の華奢な体が、ブチブチと膨れ上がって、ぶかぶかだったジャージも破裂して、肉が、踊った。
『うグォォオオアアアアアアアア!!』
『おめでとうございます! 伊能忠敬が、鬼モードに覚醒しました!』
何で!? 何でそうなるの!? ここは普通嫉妬心剥き出しの病みモードだろ!? なぜゴリマッチョに!? なぜ鬼に!? これ鬼退治ゲームなの!?
ヴァァ、と、人間離れした唸り声のあとに、
『オニイチャン………ズット………イッショ………』
「その図体でヤンデレ妹キャラはやめろーっ!! もうダメだっ! こんなクソゲーなしだっ!! 返品してクレーム入れてやっ……っつ!」
くそ! 電源切りたいのにまさかの足つったし! 急に腕立て伏せなんて無理したからだ! 床の上で悶えながら、がむしゃらにボタンを連打してると………
『それでは、トレーナーをランダムで選びます』
おいナレーションよ、段々お前にも殺意が湧いてきたぞ。
『トレーナーがスナックの鈴子ママに決まりました』
おい!? 美少女設定どこいった!?
のそのそと画面に入ってきた厚化粧のこの人………見るからにオネェだろ! 髭生えてるし! しかも俺よりも遥かに上回るでっぷり体型だし、パツパツのパーティードレス+バラとかもう運動する気ゼロじゃん!
あとここまできたなら歴史人物名で揃えろよ無性にモヤモヤする!
ん? 何か白い紙箱開けた………っておい!! ピザを食うなっ! 豪快にしゃぶりつくなっ! ターザンロープみたくチーズを垂らすなっ!
何が悲しくてダイエット中にでっぷりオネェのピザ咀嚼シーンを観賞しなくちゃいけないんだ。拷問かっ!
半分くらい食ったところで、鈴子ママとやらはてかった唇を舌なめずりして、
『ふ〜ん………アンタがノブユキねぇ』
「タカユキだっ!」
どいつもこいつも俺の名前呼ぶ気あんのか!?
さらには値踏みするような目つきで、頭から足のつま先までじろじろと見つめてくる。何? 中継なの? もう恐怖も一周回って無だ。
『フン、気に入ったわ。アンタ、アタシの昔の男によく似てる』
究極にどうでもいい情報ありがとうございます。
『ねぇ、そんなビクつかないで、お話ししましょうよ』
ダイエットがしたいです。
『ほら、いつものオカマバーに来たと思って、ネッ?』
いや、行ったことないし! 勝手な設定盛るなっ!
『ねぇねぇ、恋人とかいるの?』
「い、いないけど………」
『じゃあ、好きな人は?』
「あー………同じ学部に、気になる子が……」
『ふぅ〜ん………』
と、そっけなく相槌を打ったかと思うと、ビキリっ、と、筋肉が剥き出て、
『うグォォオオアアアアアアアア!!』
「何でぇ!?」
『おめでとうございます! 鈴子ママが、鬼モードに覚醒しました!』
元から鬼っぽかったけどさらに鬼だな! 胸元のドレスもはち切れて雄々しい大胸筋がバキバキだし。
グフフ、と、鬼化した鈴子ママは下卑た笑みを漏らして、
『アタシというものがありながら………』
いつ関係を結んだ!? 勝手に昔の男から俺に上書きするなっ! こんな奴から嫉妬されても微塵もときめかないからっ!
『ちょっと、豚ァ!!』
どすん、どすん、とコントローラーが揺れるほどの荒っぽい足音。
『お兄ちゃぁん!!』
さらに加えて乱れる足音。
本能が非常に嫌な予感を告げている。
どちゅん!! と重い衝突音のあとに、三十四インチのテレビ画面いっぱいに、かつてのトレーナーだった三人のゴリマッチョ鬼がおしくらまんじゅうしていた。
「ぎゃああああああああっ!!」
隣の部屋から壁ドンを食らうほどの、俺も含めた阿鼻叫喚が部屋で炸裂していた。
『豚は俺のもんだァ!!』
『いいや俺のお兄ちゃんんんん!!』
『ノブユキはアタシの男よォォォォ!!』
野太い声の大合唱で、世界一嬉しくないハーレムが繰り広げられる。
いや、待て。一つ、聞き捨てならない言葉が………
「お、れ?」
生まれたての小鹿のように震える俺の恐怖心を見透かしたように、三人の鬼は醜く笑う。
『実は俺たち……男の娘だったんだァ!!』
『『『ゲハハハハハハハァ!』』』
もう制作スタッフヤケクソじゃねーか!! 何? これ五年かけて完成した復讐劇なの!? 販売中止を強いられた五年分の恨みを募らせた的なやつなの!? 俺はおぞましい無差別テロに巻き込まれたのか!?
『ちなみに俺のパッドはEカップだぜェェェ!!』
黙れ門左衛門!! もうキサマには一ミリたりとも未練はないっ!!
それでは、と、空気の読めないナレーションが、俺の抗議の声も一切無視して告げた。
『この三人の中から、お好きな鬼を選んでください』
野獣じみたラブコール、画面上に揉みくちゃになるゴリラ顔、猛烈に震えるコントローラー。
うっ、と、急激に込み上げてきた不快感。口の中に酸っぱい味が広がり、おえっ! と抑える術もなく激しくえずいて、言葉よりも先に、昼食べた好物をそのまま床にリバースしてしまったのであった。
二週間後。晴れやかな声ではしゃぐ若者たちが溢れるキャンパス内で、俺は一人ベンチにもたれて天を仰いでいた。
「あっ、いたいた! タカユキー! 久しぶり! 聞いたぞ! お前あのトキメキ♡トレーニング買ったってな!!」
同学年のチャラめの友達に捕まり、しぶしぶと顔を向ける。
「なーんかアレ買ったヤツ、恐怖的なスピードで痩せていくってSNSでバズってたけど、お前まだ二週間………ってうおっ!」
目が合った刹那、チャラ男はびくりと跳ね上がった。
「お、まえ………痩せすぎだろーっ!!」
そういやこいつとは二週間ぶりだったなぁ、と、遠い目をする俺は、今朝の鏡で見たやつれた自分の顔を思い出していた。ぽっこりお腹が消えたはいいが、頬まで骨張るほど痩せこけてしまったのだ。
「何してそんなに痩せたんだっ!?」
「何って………」
ふと、走馬灯みたく脳裏に浮かんだのは、ゴリマッチョ鬼たちのおしくらまんじゅう………。ははは、と乾いた笑みがこぼれる。
「心労、かな……」
とりあえず、三次元の優しい彼女を作って、癒しのパンケーキ屋で共に仲睦まじく健やかなデブ活を始めたいと思う。
お読みいただきありがとうございます。
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