料理バカップルなお話
「お待ちどうさま!」
並べられた一枚の皿に舌鼓を打つ。
「美味しい!!」
「ああ、美味いな!」
料理を出したのは制服の上にエプロンを付けた男子高校生。竜也はキッチンに立ちながら、自分の料理を口に運ぶ。今日の料理はカルボナーラだ。
「けど私が作った方が美味しいと思うな~」
「はあ?」
また始まったよ。
「じゃあ、お前が作ってみろよ?まあ、俺の作ったやつの方が美味いと思うけどな」
「いいよ?でも知らないわよ?私の方が上手くて地団駄踏むことになっても?」
「ああやってみろや!昨日みたいに吠え面かくなよ!?」
「昨日は負けたけど今日は絶対勝つわ!」
---数十分後---
御覧の通り、こいつら二人は毎日のように喧嘩している。料理のことで言い争うのはもちろん、テストの点数からデートの場所決めでまで諍いを起こす。
もうお分かりだろう。こいつらはつまるところ、バカップ...
「さあ、どうぞ召し上がれ!」
ドンッ!と置かれた大皿のカルボナーラはホカホカと湯気を立てながら濃厚なチーズの香りを放っている。
「これも美味い!」
「……美味い」
美味い物には美味いという。彼にも彼女にも料理好きとしての矜持みたいなものがあるのだろう。
「確かにこれはチーズの使い方が良い。でも俺のシンプルなのも美味かっただろ?」
「はあ?確かにあれは卵黄の濃厚さが際立ってて美味しかったけど、でもこれはチーズが効いてるからこそいいんでしょ!?」
「いやいや、チーズは確かにいいアクセントだけど、俺のは卵白の使い方は神ってただろうが!」
いつものことだが、彼らの言い争いはどんどんとくだらない方向にヒートアップしていく。
「だから~!」
「だって!」
止めるのも面倒臭い。初めて見た時は彼らの喧嘩を必死になって止めようとしたものだが、いつものこと過ぎて誰も何も言わない。俺ももちろん口を挟まない。ミオの父親であるセンさんが額に青筋を浮かべているだけで、レストランに来ている他の客も何も言わない。またやってるよ、と言ったようなあきれ顔だけが店内に並んでいる。
彼らは毎日のように、それこそ子供の頃からこうやって料理し続けてきたのだ。そしていつものように仲良くしている。
夫婦喧嘩は犬も食わない、というやつだ。
「なあハジメ!俺の卵カルボナーラの方が美味いよな!?」
「ねえハジメ!私のチーズカルボナーラの方がおいしいよね!?」
うぜ~
僕が考え事をしている間に一周まわって話がもとに戻っていたようだ。
くっつきそうなほど顔を近づけてくる二人から距離を取りながら、少しだけ考えてみる。
まあ真剣に考えるとするならどちらの料理も美味かった。
でも、こう答えると面倒くさいんだよな。基本俺は大体のものはおいしいと思ってしまうのだ。だから二人がずっと料理していても眺めているだけで、たまにしか参加しない。
どちらも子供の頃から包丁と鍋を握ってきたのだ。一般人たる俺が甲乙つけるのは難しい。もちろんこの二人と、店長が作ったこの店の料理は俺でも分かるくらい格別だが。
という訳で...
「店長、お願いします」
「ああ」
厳めしい顔をした店長に勝負の行方が委ねられたことで、レイとミオの二人はもちろん、客席で談笑していた客たちにも緊張が走り、この場にいる全員が息を飲んで見守っている。
「……」
店長が両方の料理に口をつけ、数秒の黙考が果てしなく長く感じられる中、店長が下した判決は...
「レイの方が美味い」
「よっし!」
「なんで~!?」
店長の厳かな声に続いて、ガッツポーズをとるレイの勝ち誇った声と納得いかないと言ったミオの不服そうな声が重なる。
「よっしゃ、今日はレイの勝ちだ!」
「うそ~!?今日はミオが勝つと思ってたのに~」
「ゴチになります!」
それだけでなく、店内のあちこちで歓声と悲鳴が上がる。
ミオとレイの二人の勝負に一皿を掛ける。
これが洋食屋シャーロットの日常である。