召喚されてやったのに追い出されたので辺境でスローライフ目指し……たい。
「なんということだ!クズスキルしかないでは無いか!」
ーーは?
見覚えのない床、天井。見慣れないお洋服のオジサマ方。てか、カボチャパンツに白タイツってwww
内心吹き出しそうな私を指差して、一番若い男がキャンキャン叫ぶ。
「容姿も並、ステータスも十人並、我らが貴様を召喚するのにどれほどの労力を割いたと思っている!」
知らんがな、と人を拉致っといてボロクソに言う煌びやかな装束のボンボンを見る。あ、私のカバンはあるのか。よしよし、とりあえず防犯ブザー引けばいい?それだと殺されるかな?んー……まあ、穏便に交渉してみるか。
「あのそんなに言うなら今すぐ元の場所に返して欲しいんですが」
意見を言うときは挙手しましょう。小さく手を挙げた私を見下して、ボンボンは胸を張った。
「そんなことをする必要がどこにある?」
「は?」
「そもそも呼び出すことは出来ても帰す方法などどこにもありはしない」
「ほう」
貴様、なぜそんなに胸を張って言える?拉致っつーのは犯罪だぞ?そこんとこちょっと圧迫面接しようやないか。とかなんとか思ってるうちに、ボンボンが私の背後に命じた。
「衛兵!この役に立たん女を城の外へ放りだせ!」
「OK、アンタは敵な。把握した」
きっと、一瞬で目が座ったことだろうよ。私はもうなんの遠慮もなく防犯ブザーの紐を引っ張った。
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私を次元を越えて拉致った国は、どうやら中世レベルの文化らしい。
城どころか、王都からすらつまみ出された私は、今、辺境の農村にいる。水車小屋の中で、石臼がゴリゴリ麦を引く音を聞きながら、私はぼんやりと今後とやらを考える。
言葉は通じれど、文字は読めず。よくある異世界転移につきもののチートなんてからっきし。
あるのはカバンと、ここじゃなんの役にも立たないスマホとカード類。たどり着いたこの村の人たちが麦引きの仕事と食事をくれなきゃきっと死んでた。
「やあ、シエ。やってるね」
石臼から吐き出された麦の粉(小麦じゃないらしい)をかき集めてると、村長の孫が顔を出した。
「トマスさん……どうも」
おざなりに頭を下げた私に、トマスは笑顔で手を挙げた。ぽいっと放られた包みは、昼食のサンドイッチだろう。これを食べたらお勉強の時間だ。今日は、王国の学校文化について。
「ーーつまり、国民は貴賤なく学校に通う義務があると?」
「ああ。もちろん、貴族は家庭教師をつけてもっと高尚なお勉強をするし、貴族学校は社交界の縮図だ。でも、平民は最低限の読み書き計算は学校で習う。彼らにとって学校とは生活に必要な知恵をつける場なんだよ」
渡されたわら半紙に、羽ペンでガリガリメモを取る。なんだか引っ掛かる物言いだなぁ。
「じゃあトマスさんはなんでこんなに詳しいの?」
顔を上げると、トマスは微笑んだ。あ、これなんか訳ありなやつだ……。
地雷踏んだかも。とか思ってると、トマスは笑みを深くして、私の耳に顔を寄せた。
「ーーナイショ」
…………は?
勿体ぶられると余計気になるんですけどぉ!?
語尾にハートがついてそうなトマスの顔を、思わず殴る。もちろんグーで。それを避けもせず片手で悠々と受け止め、トマスは第二関節の辺りに音をたててキスをした。
「ウソだよ。単純な話さ、この村は領主の直轄なんだ。つまり、この村の村長イコール領主ってこと」
うん、ちょっと待ってね?私、昨日トマスさんから、ここの領主様の奥方は先々代の国王の姉姫だって聞いたばっかりだよ?てことは、てことはだよ?トマスさんってもしかしてーー……。
「は?え?えええええええっ!?」
気付いた途端、私の顔からさっと血の気が引いた。
なんで王族が追放された私の家庭教師やってんの、ねぇ!?
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「トマスったら、ようやく連れてきたのね!」
ぷくっと頬を膨らませて、グレイヘアの老婦人は私を抱き締めた。とたんに、髪から服から立ち込める香りは、めちゃくちゃ抹香臭い。そっかー、香水じゃなくてお香かー。体臭、消しきれてないよ。くすん……。
「すまない、シエ。これは祖母のメアリージェーンだ。しばらく前から君を連れてこいってうるさくてね」
正体を明かしたトマスは、私に遠慮することをやめたらしい。元々遠慮なんてしてたのかも怪しいけど。その足で私を領主様のお城に引っ張ってきた。
で、まあ、お城にいたのが領主夫人のメアリージェーン様なわけで……。この人がまた、元王女ってのが信じられないくらいフレンドリーな人だったんだけど、とにかく臭い!
トマスの時も思ったんだけどさあ、この世界の衛生観念どうなってんの!?
「とりあえず、石鹸かなぁ……」
「セッケン?」
あ、ヤベ。口に出てた?
私の呟きを耳ざとく聞き付けたトマスに迫られて、私は思いっきり目を反らす。
「セッケンって、なにかな?」
「……」
「シエ?」
「…………」
「そういえば、この城の地下には戦時下に捕虜を繋いでおくろ……」
「体を清潔に保つための道具です!」
いや、なに言い出すの、トマスさん!?地下牢は興味あるけど!見たいけど!でも入りたい訳じゃないんだよ!!
「体を清潔に?」
「はい。垢を落とす効果があって、体臭が軽減されるし、医療現場なんかで感染を減らす効果があります!」
「体臭の軽減……」
「感染を減らす……」
ため息をつきつつ説明すると、メアリージェーン様もトマスもそれぞれ食いついたっぽい。少し考えて、トマスはにっこり満面の笑みを浮かべた。怖いんですけど。
「シエはそれを作れるってこと?」
「あ、それは無理です」
キラキラ目を輝かせて聞いてくるメアリージェーン様。だがしかし、私は石鹸なんぞ作ったことはない。一時期ちょっと興味がわいて調べたけど、正直あんまり楽しそうな作業じゃなかったし。
「「え?」」
「材料と、なんとなくの作り方は知ってるけど作ったことない、です……」
「ああ、なるほど……」
尻すぼみに声が小さくなる。トマスは少し考えて、材料と作り方を教えてほしいと言った。
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さて、石鹸の材料がなにかっていったら、油と雑草である。おあつらえ向きに(ご都合主義とも言う)、この領地には鹹湖がある。
てか、トマスたちが知らなかっただけで、平民の皆さんはそこから切り出したアルカリの塊を汚れ落としに使ってた!なんなら、城でも鍋を洗ったり、洗濯に使うことがあるという。なんてこった、知らぬは貴族ばかりじゃん。
でも、あれは人の皮膚にそのままは使えないから、やっぱり石鹸は作らなきゃいけないらしい。めんど……げふんげふん、と、とりあえず湖の側にはミルナが生えていたから、試作品が作れるくらい取ってきてもらった。料理じゃないからやるのは屋外。魔法?(この世界じゃ精霊術と言うらしい)が使えるトマス監督で、石鹸作りは始まった。
まず、ミルナを灰にして、熱湯をぶっかける。一応覆いを被せて一晩放置。水溶液を作る。それを料理番からもらった廃棄寸前の鍋で油とまぜまぜしながら加熱して、ドロドロになったら木箱に入れて固まるまで放置。ちなみにここまでの熱湯作りと加熱の協力はトマスさん。あ、ミルナを燃やしたのもそうか。便利だよね、精霊術。もっとADLに活用すればいいのに。
「あれぇ?」
「固まってないな……」
数日寝かせた箱を開けた私とトマスは揃って首をかしげた。おかしいな、配分間違えたかしら?木ベラでぐるっとかき混ぜると、固まりかけの石鹸がいくつか引っ掛かる。でも、基本的には液体だ。
「なんでだろ……」
考え込む私の肩を、トマスがポンと叩いた。
「基本の作り方が分かれば問題ない。あとの細かい調整や研究はこちらでできるから。それより、今はこれをどうするか考えてくれ」
「えー……あー……そうですね。ひとまず、この辺の固形になりかけのやつはお試しに手でも洗ってみては?液体の方は、油汚れが落ちるはずなんで洗濯か食器洗いに使ったらいかがでしょう」
こうして、私の適当発言がきっかけで、この世界初の洗濯石鹸と台所用洗剤が爆誕した。
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