第1話 おくりもの
それは知らぬまに隣家に置き配された、俺あての宅配便だったらしい。
らしいと言うのは、送り状がないからだ。
長さ150センチの棺桶みたいな段ボールの中身はドールだった。
銀髪、白い肌、着せられたゴシック調の服。子供のように愛らしい顔からは、今にも寝息が聞こえそうだ。
付属されていた説明書やカタログをみると仕様が書かれている。それは『愛玩用人工生命体ペットドール』と言うものらしい。
所謂、ダッチワイフ。
こんなもの買った覚えはない。
むしろ " ナノマシンを組み込んだ生体 " なんてものは、この世界に存在しない技術だ。
アニメやゲームのフィギュアがところ狭しと並べられた机と本棚は、もはや勉強ができる環境ではない。
その隙間を狙って無造作に置かれたラノベたち。
設計住宅の2階にある。パーティションで仕切られた10畳の子供部屋だ。
その部屋に段ボールが開けられた状態で、それは収まっている。
よこたわる童顔のドール。その白い肌に目立つ小さな唇。それと小さく盛り上がった胸が、つい目に入ってしまう。
ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ!。
「――ちょとくらい、触ってもいいよな?」
興奮で心臓が高鳴るが、俺は意識のないドールに言い聞かすように言葉をかけ行動にでた。
部屋に俺1人しかいないけど、痴漢行為に思えるからだ。
「断じて、これは痴漢じゃあない! 確認だ!」
――――むにゅう。もみ、もみ。
「こ、これが――おっぱいかああ――――っ!」
だが感動もつかの間に突如として、それは襲ってきた。「――う! 冷たあ」ドールは起動前でコールドスリープモードになっている。
――すげえ……氷みたいに冷たい。
冷たさに驚き慌てて手を放したが、俺の手にはおっぱいの感触がしっかりと残っていた。
――――ごくり。
イヤ、イヤ、イヤ、待て、待て、待て――。
確かに、俺は思春期街道まっしぐらで、ヤりたい盛りの " 童貞 " だけど! 起動はマズイ…………だって家族が増えるようなもんだろ? コレ?!。
ヤバいって! 貰ったカブトムシ飼う感覚で家族に言えるわけないじゃんっっ!!!。
それは付属されていた説明書やカタログにも記載されていた。
だって飯も食うし、ウンコだってするんだぜっ! なにダッチワイフに命、吹き込んでんだよっ!!。
つーか未学習の育成タイプってなんだよ?
俺色に染めるのか? 人格形成されるまえに人格破綻者が出来上がるつーの!。
オタク舐めんなよっ!。
――いやあぁぁん♪ スマホが鳴った。
現役JKで過保護な姉からのメッセージ着信に設定した音だ。
内容は『フロ掃除よろしく』既読ついたから放置でいいだろ。
16時過ぎで買い物終わってんのかと思いつつ、スマホをベッドに投げ置いた。
そう遠くない時間に姉が帰宅する合図でもある。
俺はいったんドールを隠すことにした。
見られると困るし、ダッチワイフとか無理ゲすぎるからだ。説明ができない。
箱ごとクローゼットに押し込もうとしたが、デカすぎて入らん。しかたない、中身だけだして押し込むか。
脱力した人間は、なんて持ちにくいんだ? ドールの体が冷たくて泣きそうだ。
くそう未開封のフィギュアが邪魔だあ――座らせるのムリだから起たせるしかないのか……。
ドールをクローゼットの壁にもたれ掛けたときだった。――スルン。そんな言葉がしっくりくるくらい自然に、クローゼットの壁を通りぬけてしまった。
そこで俺がみたものは、大量の光が線を成し放射状に見える景色だった。ってことは加速してるってこと? 確か、光交差だっけ?
光とは光粒子と言う素粒子だ。質量が0の物質は無限大のパワーを発揮し加速することが出来る。だが質量が0の物質は存在しない。
そしてある速度に到達すると。
無数の光が「フッ」よりも早い速度で消え、周囲すべてが闇となる――。
――どこだここ? 一瞬だけでも気を失っていたのか?
そこはなにもない空間のような部屋。スクリーンのようなものだけが発光している。
意識が鈍い『………』声? 何言って?
『通信が切断されました。最初からやり直して下さい』
何をやり直す?
『アカウントを設定してください』
アカウント?
『そのアカウントは既に登録済みです。スキップします。ユーザー名を登録してください』
すすんだ?
『その名前は既に登録済みです。スキップします。アバターを選択してください』
は、アバター?
『このアバターは変更出来ません。スキップします。職業を選択してください』
えっ? 仕事?
『この職業は変更出来ません。スキップします。このキャラでいいですか?』
どのキャラだよ?
『通信が切断されました。リロードしてください』
ドンだけ、ポンコツな――――。
『システムを強制終了します』
「――――んだよっ!!」
――ぐきりっ! 階段を踏み外したときの浮遊感を感じたら、思い切り足を挫いた。
「痛っったあああっ!!」
倒れた拍子に大量の埃が舞う。
「うげ、ゲホッ、ケホッ!」
何だよ! 埃臭せえし……何処だここ?
俺は辺りを見回してみた。
そこはどうみてもクローゼットの中じゃあない。薄暗く、床や壁はどうみても年期の入った木材だ。
所々に隙間ができ、外の明かりが差し込んでいる。
――ギイ、ギイ。音の方へ振り向くと古びたクローゼットの扉が壊れ、揺れていた。
そして、クローゼットの中に俺の部屋がみえた。
……夢だろコレ……? こんなリアルな夢、初めてみた。
部屋の中を見回してみた。あるのは小さな机と椅子が1セット、机の上に本が1冊と横の小さな本棚に数十冊が収まっている。あとはベッドと1人用のテーブルセットだけだ。
俺の部屋より物はない。
壁にある小さな木の窓を開けてみた。
「……ブェクション! クソ眩しい」
光に目が馴れ。見えるのは木と草に丘――。
所謂、大自然。標高が高そうな山脈が遠くに見える。
木には小鳥が並んで囀ずり。草花には蝶が舞い。青空には巨大な翼竜2頭が火を吐きながら旋回している。
「……………………」
俺は、そっと窓を閉めると古びたクローゼットの中に入り、壊れかけの扉を閉めた。
『うわあああああ、あ、あ』バンッ!――ドサリ! 俺は勢いよくクローゼットの扉をはじくように投げ出され、カーペットに倒れこんだ。
「――痛ったい! ……あいたたた」
起き上がった俺はイヤな予感につき動かされ。
――まさか、ウソだろ?!
ベッドの上にあるスマホを自撮りモードで起動し、映し出された画面をみる。
そこには伊佐坂悠葵ではなくダッチワイフが映し出されていた。
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