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6.“大山鳴動して鼠一匹。他の鼠は山の中で死んだ”

「…………何だ?」


違和感に気付いたのは42週目の夜だった。

家族で鍋を囲う。父がテレビをつける。テレビでは立て籠り事件が中継されている。いつも通りだ。しかし何かが違う。


『現在このマンションの7階の部屋に、立てこもり犯が女性を人質にして立てこもっています。犯人はナイフを所持しており、現場には張り詰めた空気が漂っています。現場からは以上です』


犯人が拳銃を所持していない。女を盾にベランダに出てきた犯人は、ナイフを女の首にあてて何事かを叫んでいるようだ。


「あら、ナイフじゃ勝ち目ないわね。すぐ捕まりそう」

「拳銃持ってたって時間の問題でしょ。あっそうだ、さっち大丈夫かな〜。ウワ、めっちゃライン来てる」

「どうだって?」

「野次馬してるってさ。ほら写真」

「うわ〜、いっぱいいるわねえ」

「つまんね。チャンネル変えていい?」

「ちょっと待ってくれ」

「うわっ、兄ちゃんが喋った!キモ!」


変化はそれだけだった。しかし何故?

37週目から、ハルトは日中の行動を変え続けている。今日とった行動のいずれかが「立てこもり犯の拳銃をナイフに変えた」ということなのだろうか。


「まさか今回、この男と俺はどこかで接触していたのか……?」

「どうしたハルト、知り合いか?」

父は怪訝な顔をすると、マナがすかさず茶化す。

「えっ、立てこもり犯とお兄ちゃんが知り合い⁈サインもらってきてよ!」

「…………」

「また喋んなくなった。つまんね」



確かにどこかで会っている可能性はあった。今回ハルトは、日中を市街で過ごしていたからだ、もっとも、この男を見かけたかどうかなど覚えているはずもなかった。


「……ごちそうさま」

「あら、もう食べ終わっちゃったの?」

「もう寝る。明日から忙しくなるから」


ハルトは自室へ帰った。


「……明日?明日って何かあったかしら」

「明日も明後日も何にもあるわけないじゃん。お兄ちゃんニートなんだから」


2階まで聞こえているぞアホめ。無事“本物の明日”が来たら諏訪湖まで吹っ飛ばしてスケキヨにしてやるからな。ハルトは心の中で悪態をつくと、下の部屋から持ってきたコピー用紙を机の上に置き、明日の行動を計画し始めた。


夜は更け、そしてまたいつのまにか明ける。


「よっし、それじゃ43周目を始めよう。名付けて“立てこもり犯接触大作戦”だ!」

「さてと、昨日書いた計画書…………が、無い⁈」


机の上には昨日書いた計画書は無く、個装のバウムクーヘンがぽつりと置いてある。


「あっ、リセットされちゃったな……忘れてたわ」

「まあいいか、大体覚えてるしな。そんじゃ行きますか!」


この周回が予想外の結末を迎えることを、ハルトはまだ知る由も無い。

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