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2.“竜狩りの踊り子と時間の迷宮”

朝が来た。もしかしたら夕方なのかもしれないが、カーテン越しの薄光ではよく分からない。取り敢えず目が覚めたのでゲームを起動する。

「……は?何だこれ。ふざけんなよ……」

不可解な現象が起こっていた。昨日倒したはずの“禁域魔神龍オメガピュートーン改・百式”の撃破報酬が1つ残らず消えているのだ。それだけじゃない。ハルトの踊り子が持っている経験値も、およそ20時間分リセットされている。不具合か?そんなものがあれば運営から通知が来るはずだが。

「称号、アイテム、経験値、マップ報酬、全部パァかよ!クソっ何だコレ!こんなんアリか!」

机を叩き、手元にあった目覚まし時計を怒りに任せて床に投げつけようとする。

と、奇妙なことに気づいたハルトは、乱暴に掴んだ時計を見て怪訝そうに呟いた。


「日付が進んでいない……?」


時計が壊れているのかと疑ってPCの時計を確認するが、こちらもやはり“昨日の”日付のままだった。そんなことがあるだろうか。


「……まさか……オメガピュートーン討伐自体が夢だった、とか?」


あり得る話……かもしれない。なにせ“禁域魔神龍オメガピュートーン改・百式”は、廃人向けのエンドコンテンツの1つだ。並大抵の難易度ではない。このボスを撃破することがここしばらくのハルトの目標だったのだ。もしや何度もイメトレを重ねるうちに夢に見てしまったのか……。

そこまで考えて、ハルトはあまりのバカバカしさに脱力した。いくらなんでも間抜けすぎる。とはいえ今のところ、そう考えるのが1番理にかなっているのかもしれない。


「理にかなっている、か。自分の夢にキレ散らかした上で言うと、かなり“理知的”に聞こえるね」


嫌味たっぷりに自嘲すると、ハルトは再びゲームを始めた。オメガピュートーンに挑むリソースが足りないなら、それを今から補ってもう一度挑めばいい。


「……もう一度、とか言って、まだ一度も挑んでいないんだけどな。クソっ、いい夢だったのに」


そんなことをぼやきながら、ハルトはゲームに没頭していった。


それから何時間経っただろうか。地底神殿の最奥の、経験値の美味しいボスをもう100周近く回った頃、ゲーム内のレターボックスにメッセージが届いた。


〉from: yamibouzu

そろそろおめぴゅいきましょ


おめぴゅ、これは言うまでもなく“禁域魔神龍オメガピュートーン改・百式”のことだ。確かに今日、フレンドとパーティーを組んであの竜に挑む予定になっている。のだが。


「なんか、既視感あるんだよな……この文言も、パーティーのメンバーも」


デジャヴ、などと言うにはハッキリとしすぎた“夢の”記憶が、ハルトにはある。その違和感は、おめぴゅを討伐している最中に、確信的な疑念へと変わることになる。


討伐をはじめて既に1時間半。ここ迄の進行は順調で、誰もヘマをしなければ、そして“敵の厄介なランダム行動”等のアクシデントが起きなければ、暫くは余裕を持ってダメージを与えられる筈だった。その時である。


“禁域魔神龍オメガピュートーン改・百式”は巨大な咆哮をあげると身震いをした。最も厄介なランダム攻撃「バニシングレイ・百式」を放つ前兆だ。


「……知ってる……夢で見たとおりだ」


素早く入力を済ませると、ハルトの操る盗賊の踊り子は「幻惑の舞踊二番」「鎖状結界」を続けざまに繰り出し、最前線のタンクと攻撃職にバフをかける。「魔人のランプ」は……


「魔人のランプは攻撃に間に合わなかった。だけどタンクと後列は生き残って、僕たちは即座に攻勢に転じる」


ハルトが喋ると同時に、喋った内容と同じ出来事が画面内で起こっていく。


「覚えている。“これから起こること”全てが“記憶に残っている。何だコレ、気持ちわる……」


およそ2時間が経ち、ハルトたちは“禁域魔神龍オメガピュートーン改・百式”を撃破した。



称号を獲得

“禁域の覇者”

“時の守り手”

“ドラゴンスレイヤーLv.250”

“辺境の測量士・禁域地帯”


RESULT

ダークマター×600

魔竜結晶×3

ピュートーンの牙×5

.

.

.


「おっ、レアドロ」

「いうて雑魚武器しか作れん」

「確定泥激アツなのでセーフ」

「マジでありがたい」

「うむ」

「仮眠とるわ。落ちます」

「乙。俺も」

「おつー」


ハルトは理解不能な現象に直面して硬直していた。背中が冷や汗でじっとりと湿っていくのが分かる。


「まさか……夢じゃなかった?」

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