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1.“時計の針はいつも同じところを回っている”

“禁域魔神龍オメガピュートーン改・百式”は巨大な咆哮をあげると身震いをした。最も厄介なランダム攻撃「バニシングレイ・百式」を放つ前兆だ。

「頼むぞ」

薄暗い部屋の青白く光るディスプレイに向かって、ハルトは祈るように呟いた。素早く入力を済ませると、ハルトの操る盗賊の踊り子は「幻惑の舞踊二番」「鎖状結界」を続けざまに繰り出し、最前線のタンクと攻撃職にバフをかける。「魔人のランプ」が攻撃に間に合うかは運次第だ。

「頼む頼む頼む」


瞬間、迸る閃光。バニシングレイ・百式がタンクのHPを9割削った。後列は……


「よっし!生存!来た来た来た!」

俄かに反撃のチャンスが訪れ、パーティーのタイムシフトは攻撃フェイズ3に移行。攻撃職が次々と大威力の攻撃を叩き込む。踊り子は攻撃バフを続行しながら属性攻撃の投げナイフを投げて支援した。

そこから際どい攻防を続けて2時間程経った頃、


「ゴオオォォォォオォォォオオオオ……」


怨嗟の咆哮と共に、“禁域魔神龍オメガピュートーン改・百式”は闇の中に消えていった。


称号を獲得

“禁域の覇者”

“時の守り手”

“ドラゴンスレイヤーLv.250”

“辺境の測量士・禁域地帯”


RESULT

ダークマター×600

魔竜結晶×3

ピュートーンの牙×5

.

.

.


「…………ふぅ」

ハルトは束の間の幸福感に浸る。どうせ明日からはまたレベリングと素材集めをすることになるのだが、この瞬間の幸せを思えば苦にもならない。


「おっ、レアドロ」

「いうて雑魚武器しか作れん」

「確定泥激アツなのでセーフ」

「マジでありがたい」

「うむ」

「仮眠とるわ。落ちます」

「乙。俺も」

「おつー」


ボイスチャットから次々と人が抜けていく。

人との繋がりが消えていく瞬間は、氷が溶けるようなある種の心地よさがある。ハルトがゲーム以外でそれを感じたのは、思い出せないほど昔の話だった。いや、もしかすると、それ程昔の話でもないのかもしれない。ネトゲ廃人のヒキニートになると、1日も1時間も大して変わらなくなる。あるいは、ひと月、1年、10年さえも。

ハルトは椅子で毛布を被ったままコンビニのバウムクーヘンを食べると、そのまま眠りについた。


明日はレベリングの続きと結晶集めをしよう。

何のために?もちろん次のボスを倒して報酬をもらうためだ。

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