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序. “流れ星は地球に捕らわれた岩石に過ぎない”
弱り切った女が1人、部屋の中に横たわっている。しばらく何も食べていなかったらしく、顔はやつれ、土気色をしている。部屋は小ざっぱりしているがカーテンは閉じられ、白くシミひとつない壁紙や付けっ放しのテレビから流れるお笑い番組は、部屋に立ち込める陰気さをかえって際立たせていた。
電話が鳴った。だが女は電話に気付かない。
しばらくして、電話は鳴り止んだ。
女の指先が動く。目が覚めたらしい。
力なく目をこすり、出来の悪いコンパスみたいに腕を地面に突っ張って、重そうに体を持ち上げる。
壁に寄りかかりながら、女は暫く何事かを考えていた。その目からは涙が流れ始めていたが、女は気づいていないらしい。1つの決意とともに、彼女は顔を上げた。
何日か振りに女がカーテンを開けると、窓の向こうを流れ星が飛んで行った。彼女は手を組み祈りながら窓を離れ、そうして静謐が虚ろな部屋を満たした。
十数分の後、1人の女がマンションのベランダから転落死する。女は幸せそうな顔をしていたが、現に幸せであったかは誰にも分からない。