アクアサ-10
港町アクアサからシャヌラへ到着し、馬車を降りてからは家まで直帰した。シャヌラに着いた時には午後十時頃だったので、明日シュモイン家を訪ねることにして、僕らはすぐに寝た。疲れが溜まりに溜まっていたので即寝ることができた。
次の日。シュモイン家の門前へと立つ我々。寝過ぎてしまったので既に昼過ぎだ。でも朝の仕事や昼食終わりでちょうど良い時間でしょう。
庭先には誰の彼も姿が見えず、僕らは勝手に門から入っていく。玄関の扉をノックすると返事がした。数秒後、扉が開かれファレサさんが顔を覗かせる。
「お待ちしてました」我らの顔を見るとすぐに反応するファレサさん。
カラルルさんから僕らが来訪することを聞いていたのであろう。
「お久しぶりですね」客室へと案内される道すがら、僕はファレサさんに声を掛ける。
「本当ですね。ソルドくんと買い物に行った時に偶然出会った時以来でしょうか」ファレサさんは歩きながら、僕の方へ軽く顔を向ける。
「そうですね。あと、少し前にこちらへお邪魔しましたけど、その際はファレサさんいませんでしたからね」
「聞いてますよ。妖精のお友達を連れてきたとソルドくんから」
少し会話が弾んできたところで客室へと到着する。僕らはソファに腰掛け、カラルル女史の出番を待つ。
ファレサさんが部屋を出てから数分後カラルルさん登場。
こんにちはっとお互いに挨拶をして、早速うにやんが自分のバッグから紙袋を出してカラルルさんに渡す。カラルルさんは明るい声で「ありがとう」っとうにやんから袋を受け取った。あれが事前に頼まれて、うにやんが画材屋で購入した品であろう。紙袋の中を覗き込むカラルルさんは嬉しそうだ。
「それと、こちらもお土産です。みんなで食べて下さい」っとぼっさんがローテーブルの上へ品々を置く。
アンチョビやオイルサーディン、干し貝柱など保存が聞く海産物だ。
「わぁ。ママが好物だから喜びますよ。ありがとうございます」彼女は紙袋を横に置きお礼を言う。
ここで再びファレサさん登場。飲み物とお菓子を持ってきてくれた。
「お土産もらったよ」カラルルさんがファレサさんにテーブルの品々を強調する。
「美味しそうですね。今日の夕食はアンチョビパスタにしましょうか」ファレサさんはアイスティーとクッキーをテーブルに置きながら献立の計画を練る。
「ファレサさんにもお土産があります」僕はリュックサックから荷物を取り出す。
「え、私にもあるんですか」驚いた表情をして棒立ちになるファレサさん。
「以前お弁当を作ってくれたお礼ですよ」っと僕は手提げ付き紙袋を彼女に渡す。
「何々?」カラルルさんは興味津々なようだ。
ファレサさんはカラルルさんの隣へと腰を下ろし、丁寧に紙袋の中から金属箱を取り出した。そしてゆっくりと箱の蓋を開ける。
「マカロンだー」横目で見ていたカラルルさんが声を上げる。
「港町のお土産という感じではないですが、他に思いつかなかったので」僕は意味のない説明をする。
「とても嬉しいです。ありがとうございます」多色なマカロンから顔を上げ、ファレサさんは感謝の意を表してくれた。
僕は彼女の言葉や表情を見てホッとする。
しかしながら、スムーズな展開はここまでだ。
「あと、ソルドさんにもあるのですが……」僕はためらいながら話す。
「ソルドくんならキッチンにいますので、呼んできますね」ソファから立ち上がり、部屋を離れるファレサさん。
すぐに二人で客室へと戻って来て、ソファに座る。
「こんにちは。昨日アクアサへ行ってきたのでソルドさんにお土産があります」ソルドさんに説明する僕。
ソルドさんは軽く頭を下げる。
僕とうにやん、ぼっさんはおんちゃんへと目配りする。
おんちゃんはショルダーバッグを開き、瓶を取り出しテーブルの中央に置いた。
瓶の中には黒紫色の液体が封入されており、それを見たカラルルさんとファレサさんは首を傾げている。
「これはヌラワーの毒でして」と僕はおんちゃんの代わりに説明する。
「あぁー」と納得するような声を出す二人。ソルドさんは無言だ。
「そのヌラワーの毒を濃縮した品物らしくてですね。そのー。矢尻に塗り込むことで相手を神経麻痺させることができるらしいんですよ。そうだよねおんちゃん」と僕はおんちゃんの方へ振り向く。
おんちゃんは頷く。
「アクアサの路地裏で購入したものですが、きちんとしたお店で手に入れたものですので、違法とかそういうことはないのでご安心ください。そうだよねおんちゃん」
おんちゃんは頷く。
ソルドさんは手を伸ばし瓶を手に取り、少し眺める。
「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」ソルドさんはテーブルの上に瓶を戻した。
僕はファレサさんに目を向けると、ファレサさんはこちらに反応しコクリと首肯する。どうやらソルドさんの反応は良いらしい。
「以上です」お土産タイムの終わりを告げるぼっさん。
早々に席を立ち部屋を出ていくソルドさん。仕事の途中だったのだろう。でもヌラワーの毒はちゃんと持っていってくれた。
我々もアイスティーを飲み干したので、帰ろうかなという雰囲気を出したところ「聞いていいですか?」とファレサさんが口を開く。
「はい」反応する僕。
「シキさんがバッグに付けている仮面なのですが」
「これですか」僕はリュックサックから仮面を外し、ファレサさんに手渡した。
ファレサさんは興味津々に仮面を観察し「これもアクアサで?」と質問してくる。
「はい。駅馬車乗り場からすぐの果物屋さんで貰いました」
「あのお店でですか……?」ファレサさんも果物屋さん自体は知っているようだ。
「最近、仮面の販売も始めたらしいですよ。それで試供品として仮面を貰ったんです」説明するぼっさん。
「そうだったんですね。へぇ」うっとりした表情で仮面を見つめるファレサさん。
「よかったらそれも差し上げましょうか」提案する僕。
「よいのですか!!?」
「よいです。よいです」
「ファレサさん変わった物集めるの好きみたいで」教えてくれるカラルルさん。
「そうだったんですね。今は持ってきてないですけど、俺らも一人ずつもらっていますので、また今度持ってきますよ」ぼっさんはうにやんとおんちゃんの顔を見る。
二人は頷き了承する。
「本当ですか。いえ、持ってきて貰うのは恐縮なので、また家にお邪魔しますね。その時にでも」
「わかりました」とぼっさんは返答し、話は終わった。
ファレサさんへの手土産のことが気がかりではあったが、これでスッキリすることができた。仮面に目を輝かせていたファレサさんの姿を見られたのは思わぬ報酬だ。




