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ヲタク四人の異世界漫遊記  作者: ニニヤマ ユポカ
第二章
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アクアサ-8

 釣り場でのひとときが過ぎ去り、我らは灯台を目指して徒歩中。しばらく進んだところで一つの建物を発見。その建物は白塗りであり一人海を眺めるように佇んでいる。


 建物に近づくにつれて、そこはアイスクリーム販売所だと分かった。昼食後から時間も経っているので僕らはここで第二の休憩をいただくことにする。時間が押しているわけではないので、ゆるりといきましょう。


 開放されている扉から店を覗くと「こんにちは」と「こんにちは、いらっしゃいませ〜」と二つ声が聞こえた。そこには男性と女性の姿があり、両者とも二十代後半から三十代前半といった感じだ。店の右手側にカウンターがあり、左手にはテーブル席が二セット置かれている。


 僕らは一つのテーブル席へと座り、男性店員から木の板を受け取る。その木の板には『無香料、チョコレート、バナナ、アンチョビ』と記載されていた。


「アンチョビって何だっけ?」僕は疑問を呈す。


「魚を塩漬けにしてオリーブオイルに浸したものだよ」説明してくれるぼっさん。


「へぇ。港町ならではのアイスだね」僕はそんな言葉と同時に美味しいのだろうかっと味への懐疑心を抱く。


「私は無香料で」おんちゃんがアイスのフレーバーを選択する。


「てっきり、おんちゃんはアンチョビに挑戦すると思ったけど」煽るうにやん。


「昼食のヌラワーで十分刺激が満たされたから、今回はシンプルにした」


「なるほど」とうにやんは納得し「ボクはチョコレートにするよ」と選ぶ。


「じゃあ俺はバナナ」


 ぼっさんが残り二つのうちの安牌を取る。別に同じフレーバーを選んではいけないというルールはないが、流れ的に僕はアンチョビに決めた。


 男性店員さんに注文を伝えると、彼はカウンターへと戻り女性店員さんに注文を伝えた。お店も広くはなく、他にお客さんもいないので、僕らの注文はカウンターにまで聞こえていたとは思うが、形式として伝えるのだろう。間違いがあるかもしれないからね。


 ここからはカウンターの向こう側の手取りが見えないが、二人協力して注文した品を準備しているのが分かる。声掛けはしていないので、お互いでの作業は慣れていそうだ。


 お店の窓は全て開いており、生温いそよ風が肌を流れていくのを感じる。そんな中、僕らがぐったりしていると「お待たせしました」と男性店員がアイスを乗せたトレーを持ってきた。


 男性は僕らの前にそれぞれの品を静かに置く。アイスクリームは一本足のガラスの器に半球型で盛り付けられており、スティック状の焼き菓子が添えられていた。


 男性店員が踵を返したところで、我々は焼き菓子の反対側に乗っている小さなスプーンを手に持つ。


 僕が注文したアンチョビアイスクリームであるが、ぼっさんの事前情報通り魚のことだった。焼き菓子のように魚が添えられているということはなく、アイスクリームと混ぜられており、魚の身がチラチラと見え隠れしている。


 みんなが美味しそうにアイスを食べているなか、僕は少し躊躇しながらスプーンで半球を崩し掬う。そして、冷たいそれを口に入れた。これもぼっさんの情報通り、塩味がする。さらに甘さもある。更に更に小骨もある。とりあえず小骨は置いといて、塩味は強くはなく、甘さに対して程よい塩梅に混ぜられている気がする。体の熱さを冷ます気持ちよさと、汗で失われた水分と塩分を同時に摂取できる。


 これは正解かもしれない。いや、正解だ。しかし、魚の骨が気になるのがボトルネックかな。


 おんちゃんの無香料は白くミルク色をしており、うにやんのチョコレートやぼっさんのバナナも想像通りの色合いだ。反して僕のアイスは果実のように魚のパーツが散りばめられており、豪華さを演出している。


「これは俺の友達の話なんだけどね」突然、前触れもなく口を開くぼっさん。


 急な展開に僕の手は止まり、うにやんとおんちゃんも一回口を閉じた。


「その友達はカキヌマっていうんだけど、果物の柿に泥沼の沼で柿沼」淡々と語り出すぼっさん。


 僕ら三人は少しずつアイスを摘みながら聞くことにする。ちなみに共通の友人に柿沼という人は知らない。ぼっさんが大学で知り合った人かもしれない。


「柿沼が中学校のとき、アパートから分譲住宅に引っ越したんだけど……。そこで不可解な経験をしたらしい」


 これは……。怪談だ。僕は焼き菓子をアイスに付けて頬張る。


「柿沼の部屋は二階の奥でね。アパートでは自分の部屋が無かったから、自分の部屋ができてすごく嬉しかったんだって。棚にゲームキャラのフィギュアを飾ったり、漫画やラノベを並べたりしてね」


 僕は口直しに水を含む。


「それで学校から帰ってきたある日、違和感に気づいたんだよ。棚に飾ってあったフィギュアの位置がずれていることに……」ぼっさんも小休止のため水が入ったコップに口をつけた。


 うにやんとおんちゃんは手が止まり少し俯きながら話を聞いている。


「ペットも飼っていないし、新築だからネズミが出ることもない。両親に聞いても部屋には入ってないと」


 店内は静まりかえり風も止んだ。


「その後、巻数どおりに並べていた漫画が少し乱れていたり、読みかけのラノベのしおりの位置が変わっていたりという現象が起こった」ぼっさんはアイスを一口食べる。「流石に気のせいではないと思って母親に相談した。そこで分譲住宅が建つ前のことを教えてくれた。ここの広い土地には一軒の洋風な家と飾り気の無い無骨な広い庭と錆びたガレージがあったと。そこでは男性が一人で住んでいたけど、病んで亡くなってしまったことも」


 語っているぼっさんは無表情だ。


「そして、近所では有名だったらしい……」


「…………」


「建っていた洋風な家に幽霊が出ることが」


「…………」


「なぜなら、昔その土地には病院が建っていたからだと」


 語り終わったらしく、ぼっさんはスプーンを持ちバナナ味のアイスを食べ始めた。


「どう? 体の熱さが引いた?」口に入れたアイスを溶かしてからぼっさんは感想を聞いてくる。


「アイスを食べていたから、元々体の熱さは下がっていたんだけど」僕は感想を伝える。「でも、話自体は面白かったよ」


 うにやんとおんちゃんも肯く。


「そう。それなら良かった」


 アイスクリームとぼっさんの怪談を楽しんだおかげで疲れが少し取れた気がする。実際のところ疲れは溜まっているはずだが、気分が変わるだけでもこれからの行動力は違うと思う。


 それから、退店した後、僕らは次の目的地である灯台に向かって再び歩き出した。

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