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ヲタク四人の異世界漫遊記  作者: ニニヤマ ユポカ
第二章
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アクアサ-6

 幸いにも僕に怪我はなく、さらに幸いにもうにやんは無傷であった。ぼっさん、おんちゃんや他の観客にも怪我な無さそうではある。腕や足に当たったという人はいたが、問題無いみたい。


 あれから鎧魚ウティールは身包み剥がされマグロのような赤い切り身となり、見ていた人たちによって買われていった。



 魚市場に満足し、我々は昼食のため外へ出た。涼しくなることはなく、依然とお天道様の熱は容赦ない。


 僕たちはぼっさんのガイドブック頼りに魚料理が楽しめるお店へと足早に向かった。着いた先には幾つか御店が立ち並んでおり、全て食事をする場所だ。早く建物の中へ避難したい私どもは近場な御店へと身を入れた。


 もちろん入店先は魚料理屋を選んでいる。「いらっしゃいませ」とエプロン姿の若き女性が声を掛けてくる。エプロンの下にはTシャツとジーパンを着ており、テーブル席へと案内してくれた。


 頂いた水を早速飲み干し、僕らはメニュー表を見回す。


「キャクタフィッシュのステーキあるよ」ぼっさんが僕に教えてくれる。「好きでしょ」


「好きだけど、シャヌラでも食べられるから他のメニューが良いんだけど」ジョッキからグラスへ水を追加する僕。


「ウティールのスープは?」別の提案をするぼっさん。


「暑いのに?」


「冷たいのも選べるって」


「そうなんだ。それじゃあそれを頼んでみようかな」適当に選ぶ僕。


 ぼっさんは海老と白身魚のフリット、うにやんはブレト貝と野菜の蒸し焼き、後は各々パンを頂くことにする。


「おんちゃんは決めた?」ぼっさんがおんちゃんに振り向く。


「このヌラワーの姿焼きにするよ」メニュー表を指し示すおんちゃん。


「ほいほい。それじゃ店員さんを呼ぶね」ぼっさんが背を向ける。


「ちょちょ、ちょっと待って」手を挙げてぼっさんを静止する僕。


 再びテーブルへと向き直るぼっさん。どうしたのという顔をする。


「おんちゃんが頼んだこれ。ドクロマーク付いてる。大丈夫なの?」僕は危惧する。


「ヌラワーってあの奇妙な色をした魚だよね」うにやんは僕の顔を見る。


 そう。市場でうにやんと見ていたあの蛍光イエロー水玉模様魚のことだ。あれの名札にはヌラワーと記されていたのだ。


「さっき僕とうにやんでヌラワーの現物を見たけど、あれ毒を持ってそうな色合いだったんだよ」ぼっさんとおんちゃんに説明する。「そして、このドクロマーク。もう確定じゃないかな」


 僕とうにやん、ぼっさんの三人でおんちゃんの意見を聞くことにする。


「私の意思は揺るがないよ」


 心の中でうーんと唸る僕。表情には出さない。


「じゃあ注文するとき店員さんに聞いてみようよ」僕の心配を気にしてかぼっさんがフォローしてくれる。



「はい。このドクロ印は毒の意味ですよ」席まで案内してくれたお姉さんは笑顔で答える。


「そうなんですね」ぼっさんは店員さんに反応し、おんちゃんの意見を待つ。


「では、ヌラワーの姿焼きを一つで」おんちゃんはエプロンお姉さんに注文した。


 僕らはもう何も言うことは無い。自由を尊重するのが我々だ。


「解毒剤は食前、食後どちらになさいますか?」コーヒーの注文と同じ感覚でお姉さんは訊ねる。


「食後でお願いします」


「分かりました」


「ままま、待ってちょっと、待って」今一度止めに入る僕。


「どうしまして?」お嬢様言葉のおんちゃん。


「ふふっ……」僕は不意な口調の変化に軽く笑ってしまう。「どうしましてじゃなくて、なんでそんなに危機感もなく、食後を選んでしまうの」


 呆けた顔をするおんちゃん。


「解毒剤が後ということは、毒が体に回り始めてしまうでしょ。生死に関わるかもでしょ」僕の声が大きくなる。


「ヌラワーの毒は死ぬことがあるのですか?」ぼっさんが店員さんに確認。


「いえ、体が痺れるくらいですよ」にんまりと答えてくれるお姉さん。


「それなら大丈夫じゃない?」ぼっさんはなだめるように僕へ言葉を送る。


「……うん。そうだね」僕は納得した。



「お待たせしましたー」しばらく時間が経ち、料理を運んでくる店員さん。


 テーブルにはそれぞれの料理が並べられる。写真を撮りたいが、脳内のメモリーに保存しておくしかない。


 いただきますをして、皆料理に手をつけ始める。


 僕が頼んだウティールのスープではあるが、ウティールの切り身がごろごろと浸かっており量がある。熱により切り身の色は灰色へと変色してはいるが、食感は柔らかくスープの洋風出汁が染み込んでおり舌鼓を打ちまくりである。


 ぼっさんのフリットも天ぷらのような見た目で美味しそうだ。うにやんの貝と野菜の蒸し焼きも匂いからして絶対旨いだろう。


 そして……。


 おんちゃんのヌラワーの姿焼きであるが、一見ごく普通の焼き魚である。蛍光色な魚肌は焼き焦げ、箸をつつきたくなる見た目へと変貌している。とても毒があるとは思えない。そう、毒を含んでいるのだ。


 おんちゃんはフォークでヌラワーの身をすくい出し、頬張っている。


「熱を加えても毒って無くならないのかな?」うにやんは疑問を呈す。


「うーん。牡蠣とかは加熱すれば無くなるけど、ヌラワーの毒は熱に強いのかも」ぼっさんは海老フリット片手に考えを述べる。「で、どうなの?」おんちゃんの様子を確認。


「ウマイよ。今のところ体に変化は感じないかな」水を飲みヌラワーを胃の中へ流し込むおんちゃん。


「何か変化が起こったら教えてよ」僕はパンをちぎりにながら言う。


「がってん承知のす……」江戸っ子言葉を最後まで言わずおんちゃんはフォークを落とした。

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