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ヲタク四人の異世界漫遊記  作者: ニニヤマ ユポカ
第二章
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アクアサ-4

 仮面は顔から外しただけであり、カバンにくくりつけてある。果物屋さんの条件は『仮面をつけて通りを歩いて欲しい』、故にカバンに付けても問題は無いでしょう。暑さも限界にきているので、これ以上は健康被害に関わってしまう。うにやんだけは仮面を頭に被せており、帽子の役割としている。後頭部で結んでいた紐が顎下に移動した。



 馬車を降りてから、いくつもの店で足を止めていた我々であったが、取り敢えずの目的地である海へと到着する。


 そこは浜辺であり、砂浜に向かって小さな波が押し寄せている。そして、その光景をただ眺めている人、周辺で遊ぶ人、何かを食べている人、各々違った目的ではあるが、一つの場所で活動をしており、僕らの世界の海と大して変わることのない景色だ。


 強いて違うことを指摘するのであれば、大きなシャボン玉のような物体が何個か浮かんでいるぐらいだろうか。それらに対して、周りの人たちは無反応ではあるので、こっちの世界では当たり前のモノではあるのだろう。


「あの透明な球ってクローグリかな?」ぼっさんがシャボン玉を見ながら言う。


「あー、あの魔物図鑑に載ってたやつだね」ぼっさんの言葉によって僕の頭の中で魔物図鑑で見たイメージが再生された。


「そうそう。よく覚えてたね」


「最近、一人で図書館に行ってて、魔物図鑑も読み返していたからね。でも実物を見るのは初めてだからすぐには出てこなかったけど」


「じゃあ特徴とかも分かる? ちなみに俺は覚えてない」


「透明な体内の中に異物を取り込み、長時間掛けて異物から栄養を吸収する魔物だったかな」半信半疑で回答する僕。


「へー。あそこで子供がクローグリをボールにして遊んでるけど大丈夫なのかな?」うにやんが右手に顔を向ける。


 うにやんの視線の方向には、海に向かってクローグリを投げている子供達の姿があった。


「うーん。分かんない。周りの大人たちも止める雰囲気は無いから問題無いのでは」適当に答える僕。


「まぁそうだね」うにやんも気の無い返事をする。暑さのせいもあり、あまり深くは考えたくは無いのだろう。


 特に警戒もせず、緩んだ気構えで我々は砂浜を歩いていった。


 町中では潮の匂いはしなかったが、浜辺まで来ると潮風を感じるようになる。砂浜には貝殻や海藻が散らばり、足元を若干注意しながら歩かないといけない。そして、上空には鳥が存在する。「ヒョロロローイ↑」と珍妙な鳴き声を聞くまでは気づかなかったが、頭上を見ると茶色な鳥が旋回していた。


「シ゛キ゛さ゛〜ん゛」僕が鳥たちを見ていると濁点多めの声がする。


 振り返ると海藻を頭に乗せたおんちゃんだった。


「……」


「どうしたの?」驚かそうとしてきたであろうおんちゃんに塩対応をする僕。


「クローグリを捕まえようとしたら、海藻とばしてきた」


 どうやら僕を驚かそうとして、わざと海藻を被ったわけではないみたいだ。


「あっ」僕は思い出す。「クローグリは襲われると体内に吸収した異物を飛ばすらしいよ。図鑑に書いてあった」


「そういうことか」おんちゃんは海藻を手で取り、地面に捨てた。「子供たちみたいに私もクローグリを触りたいと思ったんだけど」


「見てみて、クローグリ捕まえた」うにやんがビーチボールを持ってきたかのように魔物を運んできた。


「おお。よく捕獲できたね」


「おんちゃんが海藻飛ばされているのを見てたから、ボクは何も入ってないクローグリを狙ってみた」


「体内に異物がなければ何も飛ばせないから簡単なのね」僕は学習した。


「私にも触らせて」とおんちゃんがうにやんからクローグリを受け取る。


 見るからに弾力がありそうだ。内臓や眼などのセンサーが見当たらない。クラゲみたいにほぼ水でできているのだろうか。


「ほい」っとおんちゃんが僕にクローグリを託す。


 僕は両手で抱え中身を凝視する。細かなゴミみたいなものが浮遊しているので、とても綺麗な見た目とも言えない。手触りは滑らかで、内圧は水風船ぐらいだ。異物を体内に吸収するはずだが、僕の指が吸い込まれていく感覚もない。不思議だ。


 手を緩めると数秒後にフワフワと浮かび、海の方へ飛んで行った。


「そういや、ぼっさんは?」僕はふと気づく。彼がいないことに。


「あっちにいるよ」少し先を見つめるうにやん。


 砂浜にしゃがんで何かを見つめているぼっさんの姿がそこにはあった。


「昔は捕まえられたけど、今は怖くて触れないなー」僕は近づいて、カニをつかんでいるぼっさんの隣で膝を曲げる。


「挟まれても少し痛いだけで、死ぬわけじゃないから」ぼっさんは五センチほどのカニを砂浜に解放した。「素揚げにすると美味しいらしいよ」


「へぇ」僕は小さな穴に逃げていくカニを見つめる。


「あのクローグリ、中にお金が入ってる」おんちゃんが声を上げる。


 僕とぼっさんは立ち上がり、二人のもとへと駆け寄った。


 おんちゃんの言うとおり、クローグリの中に百ルン硬貨が浮かんでいるのが視認できる。だが、クローグリは海の方へ。


 靴と靴下を脱ぎ、浅瀬へと入っていくおんちゃん。ショートパンツを履いているのでズボンが濡れることはない。


 僕とぼっさんも膝上ほどのズボンを履いているので海水に浸かれるが、特段入りたいとは思わない。ちなみにうにやんはくるぶしまであるスキニーを履いている。


「ヘッヘッヘ」百ルン硬貨を摘んで見せてくるおんちゃん。


「おっ。取れたんだ」僕は感心する。


「あっちのクローグリの中、魚が泳いでるよ」うにやんが別方向の浅瀬を指し示す。


「ほんとだ。魚も捕食するんだね。いや、むしろ主食なのかもしれない」ぼっさんが述べる。


 そしてもう一体別のクローグリの中には横たわっている魚がいる。泳いでいる魚も時間が経つと、あのように状態になるわけね。


 再びおんちゃんはクローグリの元へ走っていく。魚を救うためか? それとも横取りするためか? その行動の真意は何だ!?


 おんちゃんが近づく前にクローグリは上空を飛んでいた鳥に襲われ魚を射出した。鳥は慣れた動きで魚をキャッチし「ヒョロロローイ↑」と叫びどこかへ羽ばたいていった。その鳴き声はまるでおんちゃんを挑発しているようだった。

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