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ヲタク四人の異世界漫遊記  作者: ニニヤマ ユポカ
第二章
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アクアサ-3

「大丈夫大丈夫。口だけ隠すタイプもあるから」男性はぼっさんに代わりの物を差し出す。


「ありがとうございます」ぼっさんは素直に受け取っていたが、その声に濁りが含まれていた。


 僕が頂いた仮面は上部に蛇の顔が付いているものであり、口を開けて牙を剥き出しにしている。自分の性格とは反対に攻撃的な仮面だ。おんちゃんのは小さなツノが二本おでこから斜めに生えている。うにやんの仮面は横に長いのが特徴であり、耳が大きく発達しているように見える。三人とも仮面の表情は笑っているわけではなく、怒っているということもない。口と両目はついているが無表情だ。そして、ぼっさんの仮面は口だけ覆うもので、顎から何本もの棒が吊るされている。ぼっさんが動くたびに棒同士がぶつかり合い、カチカチと軽い音を出すのが特徴的だ。


 我々は試着を終え、報酬の果物を頂戴する流れと変わった。まだ仮面を着けての宣伝をしてはいないが……。


「これはパルパポっていう果物でね」と男性は枝豆もどきを持ち出すと、スジの部分に両手の指を挿し入れガバッと開けた。


 そして、皮の中から手のひらサイズの実を取り出す。その実は赤色でブドウのような透明感を持っている。一つのパルパポに三つの実が入っているので、ひと玉千ルンする高級品だ。


 僕らは四人いるから、一人ひと玉とはいかないので、切り分けてお皿に載せてもらった。


「いただきます」仮面を脱着した我らは早速食すことに。


 一口大サイズのパルパポを素手で掴み、齧る。果汁が少々飛び散るが、口の中へ入れた。


「……」


 見た目通り水分が豊富であり、乾いていた口の中が潤う。甘さはあるが、酸味が勝っており、熟していない蜜柑のような感覚。


「これ、熟れると甘くなったりします?」ぼっさんが聞く。


「うーん。多少甘くなるが、それでも酸味が強いかな」


「そうなんですね」ぼっさんは何か考えるようにパルパポをまた一口食べる。


「人気ありますか?」うにやんが聞く。


「正直、売れないね」と水気の無い笑いが出る男性。「珍しがって買っていく人とか、あと料理人が買っていくぐらいかな」


「その割には値段が高いですね」切り込んでいく、うにやん。


「遠い場所から仕入れてるので、どうしても高くなっちゃうんだよ」


「そういことですか」


 誰も彼も「美味しい」というニュアンスの言葉を発することなく試食は終わりを迎えました。例え高級な食材であっても、珍味であっても、舌に合うとは限らないということですね。



「よろしくね〜」という男性店員の挨拶を背にし、僕らは果物屋を退店した。勿論、仮面を着けての退店である。パルパポの実を食べさせてもらったからには、仕事をこなさないといけない。


「顔、暑くない?」うにやんが話しかけてくる。


「うん。暑い」体力を消費しないよう、僕は短く答えた。


 日差しが降り注ぐ中、仮面を装着することがこんなにも暑いとは。ついでに、通り過ぎる人たちの視線も熱い。


「ぼっさんは大丈夫?」気遣ううにやん。


「俺はまぁ問題ないよ。口元に熱がこもるけどね」ぼっさんがうにやんの方へ振り返り、仮面の顎から伸びている棒同士が音を鳴らす。


 風鈴のような暑さを紛らわしてくれる音ではない。


 水分補給をするために仮面を外したり、着けたりしながら、我々は通りを歩いていく。植物専門店、野菜売りの露店、傘で陽光から本を守っている本屋さんなど種々多様なお店が展開されているのを、仮面の覗き穴から観察できた。


「落花生売ってる」おんちゃんが足早に一つの露店へと向かう。


 僕らも追いかけると、長机に落花生が山盛りにされているお店と出会った。


 椅子に座っていた店の人(二十代の男性、きっと雇われ店員)は目を大きくして我々を見上げてくる。


 長机にはティッシュ箱ほどのカゴが置かれており、それに落花生を入れて購入する仕組みらしい。


「入れ放題なんですか?」おんちゃんが店員に質問する。


「え、あ、はい」店員の声が震えているのが分かる。


 おんちゃんは財布から五百ルンを取り出し店員に手渡した。


 大きな手で落花生を掴み取り、カゴの中へと入れていくおんちゃん。顔は見えないが、体の躍動感から愉しさが伝わってくる。


 人が楽しそうにしていると自分も経験してみたくなってしまうものであり、僕ら三人もお金を取り出し、落花生詰め放題に参加していた。


「これ、三つ繋がってるよ」僕はぼっさんに三両編成の落花生を見せびらかす。


「ほんとだ。変わってる。俺は大きいやつ見つけたよ」通常の三倍の大きさの落花生を見せてくれるぼっさん。


「おおぉ!」暑さにやられたせいか、徐々にテンションが上がっていく僕。


 他の三人も興奮気味になり我々は「ウヒャヒャひゃはy」と奇声を出しながら落花生を乱獲し、落花生がこぼれる落ちるたびに「うぎゃあぁ」と叫び、最後にはみんな綺麗にカゴいっぱい落花生を詰め込んでアトラクションを愉しんだ。


 終始固まっていた店員にカゴを差し出して、大きめの紙袋へと落花生を入れてもらい、僕らは店を後にする。振り返ると多くの観光客が店の周りを囲んでいた。我々は視線を感じながらも、人混みを避けて脱出する。


「店員さんを怖がらせてしまったみたいだね」ぼっさんが気遣う。


「そうだね。その代わり仮面をたくさんの人に見てもらったから良い宣伝になったんじゃない」答える僕。


 最低限の仕事をしたということで、僕らは仮面を外した。

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