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ヲタク四人の異世界漫遊記  作者: ニニヤマ ユポカ
第二章
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跨ぎ人-9

 僕は木箱を持ち上げ、床に置く。木箱には細かな彫り模様があり、気品さを感じさせた。さらに蓋を開けると、布で包まれた何かが存在し、その布をめくると一つのティーカップが露わになった。


「あったね」うにやんが沈黙を破る。


「うん。これがヨロラスさん手作りのティーカップのはず」僕は断定できない。


 実際に見たことがある訳では無いので、判断できない。だが十中八九、ヨロラスさんの物だろう。


 僕は恐る恐るティーカップを手に取る。それは白の光沢を放っているが、口縁は厚みがあり円形というよりも楕円形に仕上がっている。素人目から見ても無骨さを感じ得た。


「ユニークなデザインだね」ティーカップを褒めるための言葉を捻り出すうにやん。


「ヨロラスさんが初めて作ったという証だね」フォローになっているのか分からないが、一応答えておく。


 僕はティーカップを元の場所に収め、蓋を閉じた。



 その後、トナルさんに会う時間までリビングで休憩し、我々は玄関を跨ぐ。



「素敵なティーカップですね。歪でありながらも、どこか愛着が湧いてきそうな姿をしていると思います」箱の中身を見たトナルさんの感想。


 このティーカップがヨロラスさんの手作りした物であり、部屋の地下収納で保存されていたことを僕は伝える。


「それでは、これを跨ぎ化した彼に見せれば何かしら反応が期待できますね」椅子から立ち上がるトナルさん。


 夜更けの虫達がささやくなか、我々はヨロラスさんの元へ向かった。途中、アヒューくんを連れたヴェミラさんに会ったので挨拶をしていく。


 ヨロラスさんをこの前とは別の場所で見かける。移動先も固定されているわけではなく、ランダムに行動しているようだ。


 早速、僕は彼の前へと立ちはだかり、木箱からティーカップを取りだし見せた。


「…………」


 数秒の間を感じたが、ヨロラスさんに動きあり。前屈みになり僕の手からティーカップを両手で掬いとるように持ち上げた。


 ティーカップを見つめた後、我々の顔を一人ずつ見回す。そして、ティーカップを両手で持ったまま墓地の方角へと歩き出した。


 僕たちもヨロラスさんに追従する。夜明け前であり、他の跨ぎ人たちが出歩いているなか、彼だけが墓地へと向かう。


 ヨロラスさんは自分の棺桶へと丁寧に入り込み、中から手を伸ばし棺の蓋を閉じたのだった。



「これで解決したのでしょうか?」ぼっさんがトナルさんへ聞く。


「はい。大丈夫です」トナルさんは断言する。「今後様子を見て、ヨロラスさんが出歩くことがなければ、棺桶に土を被せます」


 僕らはヨロラスさんの棺へ顔を向けたまま会話をしている。


「後のことは私一人でもできますので、みなさんの仕事はこれにて終わりですね。ありがとうございました」トナルさんは我々へ体を向ける。


「僕たちもヨロラスさんのことなど、色々と知ることができました」



 おんちゃんのゾンビ見学へ行こうの顚末はこれにて終了。跨ぎ人調査の報酬は、あれから小屋へ戻り受け取った。


 昼夜逆転の生活が続いたため、それを戻すのに苦労したが、無事普段通りの起床時間へと移行できている。


「俺も陶芸体験行ってこようかなー」ぼっさんが僕の手作りティーカップを見ながら呟く。


 あれから、再び陶器販売店『ズゥ』を訪ね、自作のティーカップを頂いた。ヨロラスさんのティーカップと負けず劣らずの姿形をしており、彼に少しだけ共感することができた。ただ、今のところ愛着は湧いていない。これを使い続ければ何か感じるものが抽出されるかも。


 そんな訳でぼっさんに紅茶を注いでもらったところだ。


 僕はティーカップの取っ手に指を入れ、口へと近づける。鼻腔で匂いを感じながら、縁に口をつけ手首を捻り、紅茶を少しだけ流し込む。口縁部が厚いためマグカップのような口あたりだ。顔から遠ざけティーカップを横からと、上からと眺める。そしてまた紅茶を啜る。

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