跨ぎ人-8
僕は足を動かさない。
迷子になった時、その場から動かないのが鉄則だ。
三人が過ぎ去った方向を見据える。
「…………」
僕は足を動かす。
五分ほど待ってみたが、皆が戻ってくる気配が無いからだ。
まぁ、合流できなかったら家に帰れば良いのだから問題はない。そう判断し、僕は先ほど気になったお店へ入ることにする。
そこは陶器販売のお店『ズゥ』。ここでは陶芸体験もできるみたいだ。そう記された紙が店の窓に貼られている。
この陶芸体験の文字、そして昨日のアンティークショップ『フィ』の店長さんが仰っていたことがリンクし、僕は閃いたのだ。
そう、ヨロラスさんは自分で何かを作ったのではないかと……。骨董品が好きで集めていたのであれば、それらを自分で作り出してみたいという気持ちに発展する可能性もある。そして、蒐集した骨董品は手放したが、ハンドメイドした自分の作品は他人に譲ることも、美術館へ寄贈することもできない。なぜなら、その物が他人に自慢できるような品では無かったから。もしくはそれが他のどの品々よりも大事だったから……。
『フィ』の店長さんが言ってたように、自分でハンドメイドした物は貴重なのだと。
僕は『ズゥ』の人にヨロラスさんのことを聞いてみた。どうやら一年ほど前に陶芸体験をしてティーカップを一つ作ったとの情報を頂いた。
このことを早くみんなの耳に入れたいが、どこに行ってしまったか分からない。長い時間『ズゥ』に居たから三人とも外食を済ませて家に帰ってしまったのかもしれない。
「…………」
ヨロラスさんのことを聞くのに、なぜ滞在時間が長かったのか、それは僕も陶芸体験をしていたからです。
色々とお話を聞いているうちに、店の人から「あなたも作っていきますか?」と言われ、ティーカップ作りに夢中になってしまいました。情報を頂いてからの後で、流石にお誘いを断ることもできず、粘土をこねくりました。話していた時間と合わせて一時間ほどお店にいたことでしょう。
ちなみに作成したティーカップはまだ焼く工程が残っており、店側で焼成をして下さるので後日受け取りに来ないといけない。
僕は帰り道、三人を探しながらもピザを食べて帰宅。リビングにて御三方とも集まっており、お茶を飲みながらくつろいでいた。予想通りみんな外食を済ませたとのこと。
僕も外で食べてきたことを伝え、さらに陶器屋さんで知り得たことを話した。
「それじゃ、そのヨロラスさんが作ったティーカップがこの家のどこかにあるのかもしれないね」うにやんが言う。
「あるとしたら、空室のヨロラスさんの部屋か……」ぼっさんが僕の前にコーヒーが入ったカップを置いてくれる。
「ありがと。うにやんはこの前あの部屋に入った時、それっぽいものは見当たらなかったの?」僕は尋ねる。
「うーん。無かったと思うけど」首を傾げるうにやん。
「後から探してみよう」とおんちゃんが瓶の蓋を開ける。
「おっ。どうしたのそれ?」僕は聞いてみる。
「さっき、帰り道で買ったんだよ。はい」と僕に瓶の口部を向けるおんちゃん。
僕は瓶に手を差し入れ飴玉を一つ手に取り、コーヒーへ落とした。
休息を挟んだところで、いざヨロラスさんの部屋へ。
町長さんにこの家を案内して頂いた時にヨロラスさんの部屋を見たことがあり、その日以来のお目見えである。
僕たちはそれぞれ手持ちランプを持参しており、各々見たいところに明かりを注ぐ。存在するのはベッドと机に椅子、そして本棚だ。トナルさんの小屋と一緒で簡素な感じだ。うにやんの記憶通り、骨董品の姿は見当たらない。机にはペンや紙の束が置かれており、どれもホコリを被っている。
埃を手で払い紙を一枚手に取ってみると、ヨロラスさんのサインが記入されているのがすぐに分かった。どうやらこれがうにやんの言っていた契約書のようだ。
契約書を丁寧に読んでいくと、骨董品を美術館へ寄贈させるための内容だと理解できた。そして、他の用紙も同じような感じだ。
「本棚には何かあった?」僕はぼっさんに聞いてみる。
「ううん。辞書や小説ぐらいかなー。所々隙間があるから、ここにも何か飾っていたのかもねー」ぼっさんが本をペラペラとめくっている。
「それじゃ、あとは床下収納ぐらいか」とおんちゃんが発言する。
「えっ? なんで知ってるの?」僕は小さな驚きを見せた。
「えっ? みんなの部屋にもあったでしょ? ベッドの下に」おんちゃんも逆に驚いている。
「存在しているかどうかも知らないよ。ベッドの下は掃除するけど、どかしたことがないよ」っと僕はぼっさんとうにやんに顔を向ける。
ぼっさんとうにやんも知らなかったと首を振る。
「マジかー。今日一番の衝撃」と言いつつおんちゃんはランプを部屋の隅に置き、ベッドを持ち上げようとする。
僕もランプを机の上に置き、手伝う。
二人でベッドを持ち上げ、横にずらすと、埃まみれの床が現れる。しかし、よく見ると床には親指サイズほどの穴が空いてるのが分かった。
「ここに指入れるのは怖いのだけれど」僕は遠回しにおんちゃんへ委ねる。
「ちょっと待ってて」と言いおんちゃんは部屋を出て行った。
足音から察するに、自分の部屋へ行ったのだろう。
おんちゃんはすぐに金属棒を持って現れる。棒の先は曲がっており、その先を床下収納の穴に引っ掛けるおんちゃん。持ち上げた床の奥をぼっさんとうにやんがランプで照らす。
そこには一つの木箱が存在した。




