跨ぎ人-7
「祖父もヨロラスさんから聞いた覚えは無いほうです」女性は飴を舌で転がす。
「わかりましは……。ありがとうございまふ」僕も飴玉を含みながらお礼を伝える。
「お爺さんと二人で店を切り盛りされているんですね」飴を舐めながらでも滑舌が良いぼっさん。
「はい。元々は祖父の店でしたが、三年前からわたしも店番していますね。最近ではほとんどわたしでふが」
「それでは、実質店長ですか?」
「まぁそうですね」上の階にいる祖父を気にしながら、声の大きさを絞る女性店長さん。「祖父はオーナーみたいな感じです」と微笑む。
僕らも心温まり笑った。
「店長さん。こちらの品、値札がありませんよ」店内をフラフラとしていたおんちゃんが尋ねる。
店長と僕らはおんちゃんの方へ近づく。
「あぁ。それは非売品、飾りです」
その先には金属製で箱型のネズミがいくつか鎮座していた。どれも顔やボディが統一されていなく、愛嬌を感じさせる。
「へぇ。貴重な物なんですね」僕は思ったことを言う。
「まぁ貴重といえば貴重でしょうか」
「…………」
「わたしが作った物ですので」
「そいうことでしたか」
「もうちょっと綺麗にできれば売り物にしても良いと思うですが、いえ、そもそもうちはアンティークショップですので、場違いではあるんですけどね」
「アンティークショップ兼手作り雑貨の店に変えちゃいましょう」おんちゃんが無責任なことを述べる。
「それも良いかもしれませんね」と冗談まじりに顔を綻ばせる店長さんだった。
飴玉が溶け終わると同時に僕らはアンティークショップ『フィ』から退店した。
「あの瓶詰めの飴玉おしゃれだったね」うにやんが憧れを抱く。
「買い物先に普通に売られているけど、俺らの家にあってもおしゃれに感じないだろうね」意見を述べるぼっさん。
「アンティークショップだから雰囲気が出ていたということか」僕は反応する。
本日の調査はこれにて終わり。僕たちは夕食後、トナルさんへの報告のため林の小屋へと向かった。
ヨロラスさんは骨董品を蒐集していたこと、入手できなかった品が未練では無いかと推測し、アンティークショップに訪問したことをぼっさんが伝えた。
「調査ありがとうございます。良い感じですね」トナルさんは満足そうだ。
「そうでしょうか……。正解に近づいているのかどうかもわからないですけども」ぼっさんは考えを述べる。
「経験上、ゴールを間違えていたとしても、調べていることは無駄にはならないので、大丈夫ですよ。後々それらが役立つこともありますから」大人な回答のトナルさん。
ぼっさん含め、僕らもその言葉に気持ちが前向きになる。後ろ向きになっていた訳ではないが、目的に向かってこのまま進むべきかどうかの迷いが心のどこかにくすぶっていたのは事実だ。
シャヌラには他にも骨董屋、アンティークショップは存在するので、今後も調査をすることに決定。あとは駄弁って解散。
今日得た情報によると、トナルさんの研究は国から予算が出ており、僕らへの報酬もその中から出せるとのこと。よく分からないが、国からお金が貰える研究ということは、トナルさんは優秀な方なのだろうか?
我々は夜明けには家へ帰ることができ、そのまま昼まで寝ることにした。
夜の間活動して、陽が出る頃に寝るという生活をしていると、高校生の頃、みんなでゲームをしていたことを思い出す。週末になると、うにやんやおんちゃんの家へと集まり様々なジャンルのゲームをしていた。朝焼けが出る頃には解散となり、自宅へ帰りベッドへ入る。そして昼頃に起床。そんな感じだった。今思えば、夜きちんと寝て次の日の午前または昼から遊んだほうが、心身ともにリセットされ効率良く遊べそうな気がする。だが、コンビニでお菓子を買い、夜通しみんなでゲームをするという背徳感が、楽しさを倍増させていたのだろう。
そんな記憶を発掘しながらも、途中力尽きて僕の意識は薄れていった。
起床後、我らは昨日のアンティークショップ『フィ』以外のお店へ向かう。
いくつかの骨董屋、アンティークショップに出入りするが、ヨロラスさんの未練に近づく情報は得られなかった。話をまとめると、ヨロラスさんはお金には困っていなかったみたいで、欲しい品は躊躇なく購入していたそうな。それにより、手が出せない品は無かったと……。
「外食でもして帰ろうか」ぼっさんが提案する。
「そうだね」同意する僕。
昨晩のトナルさんの言葉により、心が折れるということは無いが、今日は進展が感じられないので多少気が滅入っていた。きっとぼっさんも同じ心持ちだったのだろう。
うにやんとおんちゃんも賛同し、僕らは食事を提供してくれる店をぷらぷらと探す。
そして、僕は一つのお店に注目し、立ち止まった。
そして、他の三人は僕が静止したことに気づかず、歩き去った。




