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ヲタク四人の異世界漫遊記  作者: ニニヤマ ユポカ
第二章
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跨ぎ人-6

 今までたくさんの氷を口にし、氷のことはわかっていたつもりであったが、完全に自信が溶けてしまった。


「氷処カルシュの氷は若干雑味があるのが特徴ね。でもその分安いのが売りになっているわ」町長夫人が教鞭を執る。


「ケビスイと同じで洞窟から氷を採取するのでは? どうして安くできるのですか?」ぼっさんも氷を口に入れる。


「ケビスイが洞窟から氷を採取しているのは知っているのね。関心関心」


 町長さんたちは僕らが氷処ケビスイの手伝いをしたことを知らないらしい。


「カルシュは氷を取っているのではなく、自分たちで作っているのよ」町長夫人も自分用のアイスコーヒーを持ってテーブル席に座る。


「店の地下深くに水を張って冷やしている?」うにやんが回答する。


 首を横に振る町長夫人。


「標高がある場所で水を張る」おんちゃんも自信を持って回答案を出す。


 だが、町長夫人は嬉しそうに顔を振り否定した。


「魔法で作っているの」焦らさずに解答を教えてくれる町長夫人。「細かく言えば魔法で水を冷やしているかしら」


「そういうことですか。魔法という発想までは辿り着けなかったです」僕は素直に答える。


「ケビスイが自然で出来た氷を運んでいるから、カルシュもただ気温を利用して作っているものだと考えたのが悪かったか」ぼっさんも分からなかったみたいだ。


 だけど、魔法が存在することは既知なのだから、もう少し視野を拡げるべきであったか。そうすれば自ずと答えが導けたかもしれない。


「しかしながら、どうして魔法で作ると氷に雑味が?」僕は次なる疑問を聞く。


「魔法を使用すると急速に水を凍らせることができるから、その分空気が中に入ってしまうとか。私も詳しくは知らないのだけど」


「それなら魔法でもゆっくりと時間を掛けて凍らせば、美味しい氷が作れるのでは?」うにやんの考え。


「それだと魔法の意味がないのでは、それこそさっき言ったみたいに気温の低い場所で水を張った方が楽だし」ぼっさんが指摘する。


「それもそうか」とうにやんが納得し、僕たちはハハハハハハと笑った。


「話を戻してもいいですか?」一緒に笑っていた町長さんが、僕たちの本来の目的へと導いてくれる。


「すみません。話が逸れてしまいましたね」脱線させた張本人の僕が謝る。


「えーっと。ヨロラスさんの趣味が骨董品集めで、だけど罹患した際それらを手放した。ですね」しっかりと覚えていたぼっさん。


 さすがです。


「そうです。彼も死期を悟ったのでしょう。晩年は集めた品々を信頼のおける同志に譲ったり、美術館などの施設へ寄贈してました。それまではあなた方が使っている部屋には綺麗にそれらが飾られていたんですよ」


「だから、一人暮らしなのにいくつも部屋があったのですね……」僕は述べる。


「えぇ。陶器を飾る部屋、ガラス工芸を飾る部屋などと使い分けてました」


「ということであれば、ヨロラスさんの未練は生涯手に入れることができなかった骨董品なのでは?」と推測を建てるおんちゃん。


「その可能性はあるね。その骨董品を跨ぎ化したヨロラスさんへ渡せば成仏してくれるのかも」僕ものっかる。


「現在、他に考えられることも無いから、その方向で調べてみようか」賛同するぼっさん。


「欲しがってた品々に心当たりはありますか?」うにやんは町長さんへ質問する。


「うーん。特に何も聞いていないけどねー。私も骨董品については門外漢だから、聞いていたとしても忘れてしまっているかも。面目無い」


「いえいえ。とんでもない」僕は首を振る。


「シャヌラの町にいくつかアンティークショップがあるので、そこを訪ねてみるのはどうでしょう? ヨロラスさんも出入りしていたから何か分かるかもしれませんよ」


「耳寄りな情報です。それではお店へ行ってみます」


 僕らは町長夫妻にお礼を伝え、シャヌラの街中へと繰り出した。



 教えて頂いた住所、シャヌラの南に位置する場所へと到着。


 民家が立ち並ぶ中、いかにもな建物を発見。アンティークショップ『フィ』。深碧色の煉瓦造りな建物に店の名前が記された看板が掲げられている。


 木製の扉を開けるとドアベルが鳴り響き、店奥から女性が顔を覗かせた。


「いらっしゃいませー」と女性は声を出し、こちらに出てきてくれた。


 他にお客さんは見当たらず、置き時計や年季を感じさせる椅子、透明な猫の置物などが陳列されている。


「お尋ねしたいのですが」僕が女性店員へ話しかける。


「はい」


「数ヶ月前に亡くなられたヨロラスさんのことについてお聞きしたいのです」


 女性は少しハッとした表情の後「あー。口髭を生やしていたヨロラスさんですね。うちの店に来てましたよ」


 その言葉に我々のテンションは少々上昇する。


 僕はヨロラスさんが跨ぎ化していること、それを解消するため、彼の心残りを調査していることを伝えた。個人情報なのでヨロラスさんが跨ぎ化がしたことは、なるべく口外しない方が良いが、理由を説明しないと怪しまれるので致し方ない。一応、トナルさんにも了承は貰っている。


「それで、生前のヨロラスさんが色々な品を購入し、集めていたと思うのですが、入手できなかった品があるか覚えはないですか?」


「んー」微動だにしない女性。「わたしの記憶では無いのですが……。ちょっと待ってくださいね。祖父に聞いてきますから」っと店奥へと小走りに進み、階段を駆け上る音がした。


 しばらくの間、僕らは店内のアンティークを見て回った。雰囲気のある品々ばかりで欲しくはなるが、やはりどれもお高い。一般に売られている物に比べて、価格の桁が多い。


 タタタっと今度は階段を軽快に降りてくる音がして、女性が戻ってきた。


「祖父がくれました、よろしければどうぞ」


 女性の手には瓶に詰め込まれた色とりどりの飴玉が存在した。


「いただきます」

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