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ヲタク四人の異世界漫遊記  作者: ニニヤマ ユポカ
第二章
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跨ぎ人-5

「大丈夫かい?」僕が膝をついた音に対して振り向き声を掛けてくれるトナルさん。


 僕は立ち上がると大丈夫ですと軽く笑う。


 トナルさんはランプを返そうとしてくれたが、僕は断り後ろにいたぼっさんと共に歩くことにした。


「いましたいました」さらに散策を続けるとトナルさんが口を開く。


 彼の目先には一人の跨ぎ人が闊歩している。


 我が四人にはその男性の姿に見覚えがあった。そう、最初に出会ったゾンビもとい跨ぎ人だ。


「この人がヨロラスさんだったのか」少し驚きを感じさせるぼっさん。


「既に会っていたのですね」トナルさんが僕らの言動を見て察する。


「ヴェミラさんの前に見かけた、最初に出会った跨ぎ人です」僕は説明する。


 ふむふむと納得するトナルさん。


「確認ですけど、跨ぎ人の方々は夜活動するんですよね?」ぼっさんがヨロラスさんを観察している。


「合ってますよ」返答するトナル研究員。


「昼間はどうしているのですか? その場で倒れるってことはないですよね。スーツもそんなに汚れてはいませんし」


「するどいですね。跨ぎ人は夜明けになるとそれぞれの家というか、お墓に戻っていきます」


 へぇーっと僕は感心する。


「後ほど墓地にも案内しますよ。あ、それなら夜明けに行った方が都合が良いか」自分の言葉にぬかづくトナルさん。



 跨ぎ人のヨロラスさんと別れ、僕らは一旦小屋へと戻り、二時間ほど眠った。


 トナルさんに起こして頂き、外へ出る。東の空が青く滲むなか、墓地へと移動した。


 墓地へ着くと、多くの棺が剥き出しの状態で土に埋められているのが視認できる。蓋が開いた状態のものもあれば、閉まっているものもある。


「棺桶は結構浅く埋められているのですね」僕は感想を述べる。


「えぇ。跨ぎ人になるならないかは分からないので、深く埋葬しないようにしてます。奥底に埋めたとしても、這い上がってくる跨ぎ人もいますけどね。地中から出てこられない場合、呻き声が延々と聞こえてくるから、やはり浅く埋めた方が良いという傾向にはあります」


「夜中に地面の下から声がするのはホラーですね」うにやんが呟く。


「跨ぎ人のことを知らなければ不気味に感じるでしょう」


「墓石は無いのですか?」おんちゃんが疑問する。


 そういえば見当たらない。


「ありますよ。あちらに」っと少し遠くへ焦点を合わせるトナルさん。


 僕たちもそちらを見やると、多くの墓石が密集しているのが分かる。


「本来は死者を埋めた先に墓石を設置するものですが、跨ぎ人にとって色々と邪魔になってしまいますから、少し離れて置いてます。墓地の管理人に尋ねれば、どこに誰が埋葬されているかは判別できますので、棺桶と墓石を離しても問題ありません」


 面白いといえば無礼ではあるが、跨ぎ人の存在により墓地や故人への対応が変わってくるのは、文化としてユニークだと思われる。


 僕らがトナル先生より講義を受けていると、四方から跨ぎ人が集まってきた。十人ほどいるだろうか。その中にはヨロラスさんやヴェミラさんも含まれている。


 彼らは棺に近づくと、ある者はそのまま棺に入り込み、ある者は丁寧に棺桶の蓋を開けて横になる。


「皆さん器用ですね」っとうにやんが言う。


「跨ぎ人にとっては棺桶に入ることは睡眠のようなものですから、本能的に動いてしまうのだと思います」


 朝焼けにより、空が赤と青に染まるころには、墓地も静寂に塗り替えられた。



 その後僕らは家へ帰り、昼頃まで就眠。起床してから早速ヨロラスさんの調査を開始する。


 まずは町長さんへの聞き込みだ。幸いにも本日は休日であり、町長さんは御在宅だった。リビングへあがらせてもらい、アイスコーヒーと焼き菓子を頂く。一息ついたところで、ヨロラスさんが跨ぎ化していること、僕たちがトナルさんに代わりヨロラスさんの心残りを調べるていることを伝えた。


「う〜ん。未練ですかー。彼は悩みを他人に話す性格ではなかったので、心当たりがないですねぇ」町長さんは相変わらずの低音ボイスだ。


「そうですか。確かヨロラスさんは独り身でしたよね? その……」その先が言いにくく言葉に詰まる僕。


「あぁ。彼は望んで独身を貫いていましたので、同居人が欲しかったとかそのような願望は無いと思いますよ」にこにこと話す町長さん。


 きっとヨロラスのことを思い出しながら喋っているので自然と表情が緩むのであろう。


「なんだろうねー」うにやんがビスケットを口へ運ぶ。


「ヨロラスさんは骨董品を集めるのが好きでしたよねー」キッチンで作業をしている町長夫人が喋る。


「そうだね。私も時計とか変な仮面など色々見せてもらっていたよ」天井に顔を向け、懐かしむ町長さん。


「でもあの家やヨロラスさんの部屋には何も残っていませんよね?」疑問を抱くうにやん。


 実際にヨロラスさんの部屋へ入ったことがあるうにやんが言うのだから間違いはなさそうだ。


「そう残っていないんだよ。彼が病気を患った時、全部手放しちゃったから」


「そうなんですか」僕はアイスコーヒーを飲み干し、氷を口の中に入れた。むむむ。「この氷は氷処ケビスイで購入したものですね?」


「残念。氷処カルシュで購入した氷よ」町長夫人はそう言って微笑んだ。

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