跨ぎ人-2
そう。バットだ。ゾンビといえばバット。バットといえばゾンビ。ゾンビとバットは一対の仲なのだ。
僕は地面をランプで照らし代用品を探すことにする。
「どうしたの?」僕の急変に声を掛けるぼっさん。
「バットの代わりになるものを探してる。主に太い枝とか」
「なるほど。ゾンビ相手ならチェーンソーも欲しいね。使ったことないけど」
「えっ。ゾンビに対してはカタナじゃないの?」うにやんが疑問を呈す。
どのような作品を見てきたらゾンビイコールカタナと言う答えが出てくるのか。五分程語り合いたい。
僕らがやいのやいのしていると、いつの間にやらおんちゃんがゾンビの近くまで移動していた。
危なーいっと叫ぶこともできず、我々は自身の優先を第一に考えながら、おんちゃんの死にゆく様を見ることしかできない。
ゾンビとおんちゃんの距離は五メートルにも満たない。だが、ゾンビはおんちゃんを気にする様子無し。
「あれ? 本当に大丈夫っぽい?」ぼっさんがおんちゃんの方へ歩き出す。
つられて僕とうにやんも向かい寄った。
近づくとゾンビの詳細が分かってくる。ゾンビは六十から七十代ほどの男性型で上下スーツを着ているが素足だ。ランプの明かりで見た限り、衣服に穴やほつれを確認できるが、肌に目立った損傷は確認できない。立ち止まっていれば人間と見間違えてしまうだろう。
我々四人が集まってもゾンビの反応は無し。ただただ足裏を擦るように歩いているだけ。裸足で林の中を歩くのは痛かろう。
「こんばんは」突然おんちゃんがゾンビに挨拶をする。
おんちゃんのアドリブに僕の心臓の働きが加速する。
ゾンビはこちらに振り向き、そして軽く会釈した。
「これはこれはご丁寧に」とおんちゃんが頭を下げる。
続けて僕らも首肯した。
?? 言葉が通じるの?
「何をしていらっしゃるのですか?」おんちゃんが続けて質問をしていく。
しかし、ゾンビには反応が無く、先ほどと同じように歩き始めてしまった。
「簡単な言葉にしか反応しないのかな?」ぼっさんが考察する。
「そんな感じだね」っとうにやん。
「一人だけなのかな?」僕は単純な疑問を思い浮かべる。
僕らはお互いに背を向け、周りを見回す。
「あっちにも動きがあるよ」うにやんがランプを奥に照らす。
うにやんの方向へ視線を変えると、確かに動く影が見てとれる。
我々は猜疑心を忘れ、別のゾンビへと近づいて行った。
今度のゾンビは年配の女性型でワンピース姿だ。その隣、足元にはトイプードルのような子犬がフラフラと歩いている。リードには繋がれていないが、この女性の周りを離れず移動しているようだ。
「この犬もきっとゾンビ状態なんだね」僕は述べる。
「足取りが悪いし、俺らにも無警戒だから。そうなんだろうね」ぼっさんの声にはどこか悲しさが含まれている気がする。
「可愛い犬ですね」おんちゃんがまた声を掛ける。
年配の女性ゾンビはこちらに首を回し、挨拶というよりか肯定するかのように顎を下げる。
「この子のお名前は?」
女性はおんちゃんの質問には耳を傾けず、木々の奥へと行ってしまった。
「イエスノーの回答には反応できるのかな?」考察するうにやん。
「どうだろう。頷くことしかできないのかも」ぼっさんの意見。
今気づいたが、耳を澄ましてみると、全方位から地面が何かと擦れる音が聞こえてくる。どうやらこの林の中には多くのゾンビがフラついているようだ。
もしも、これらのゾンビが一斉に襲いかかってくるのではと考えると……。
「なんだか、ここは肝試しの場所としては最適じゃない?」おんちゃんが罰当たりなことを言い出す。
「気持ちは分かる。けど、ここのゾンビさんたちは元は生きてた人間や犬なのだから、それは良くないと思う」ぼっさんはまともだ。
「そっか……。うん。ごめん」謝るおんちゃん。
「ゾンビさんたちが徘徊しているってことは、この近くに墓地があるんじゃないの?」疑問を持つうにやん。
「確かに。それは考えられる。陽が出てくると墓地へと帰るのかもしれないね。昼間はゾンビさんたち見かけないの?」僕はおんちゃんに尋ねる。
「ここには昨日の夜初めて来たから分からない」
「そっか」
初めての場所に対して、なぜ深夜に行こうと思ったのか、おんちゃんが一番のミステリーだ。
「こうも考えられない?」ぼっさんには別の見解があるようだ。「ゾンビ化してしまう病気を患って、急に変化してしまう場合も考えられる。そうするとお墓は無いよね」
「あぁー」っと僕たち三人は納得する。
「それじゃあ。僕らもここにいるとヤバいんじゃない? 感染するかもしれない。その病気に」僕は自分で言いながらも血の気が引くのを感じてしまった。
「帰ろう」ぼっさんが切り出す。
僕らは来た道を戻るため踵を返した。
「こんばんは」
我々が振り向いた先には、右手を上げて挨拶をするゾンビさんが居た。




