表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヲタク四人の異世界漫遊記  作者: ニニヤマ ユポカ
第二章
72/103

跨ぎ人-1

「ゾンビ見に行かない?」夕食中、おんちゃんが突として口走る。


「いつ?」ぼっさんがチキンステーキをナイフで切りながら問いかける。


「今晩」


「俺は行けるよ」


「ちょっと待って」冷静沈着な僕は話を中断させる。「そもそもゾンビがいるの?」


「うん」濁りの無い感情で答えるおんちゃん。「昨日の夜、町外れを散歩してたんだけど、そこで見た」


「へー」うにやんが興味なさそうにする。「行くのであれば付いてくよ」いや、興味ありありの発言だ。


「ちょちょちょっと」僕は慌てて皆を冷静にさせようと、両手を大振りする。


「シキさん落ち着いて」とぼっさん。


「うん」僕は動きを止める。


「……」


「ゾンビだよ?」改めて口を開く僕。


 三人とも頷く。


「襲ってくるんじゃないの? 危険でしょ?」


「いや、身の危険は感じなかったよ。近くで見てたけど」人参のソテーをパクリと口に入れるおんちゃん。


「そうなの? それゾンビじゃなくて、ただの人なのでは?」


「ううん。あれはゾンビ。間違いない」頑なのおんちゃん。


「それじゃこうしようよ。そのおんちゃんが見た者はゾンビであるかどうか、それを確かめに行こう。それならシキさんも良いでしょ?」うにやんが僕を見る。


「まぁそれなら……」


「よしっ。じゃあ今晩二十三時頃、家を出るから」おんちゃんは意気揚々としている。

 そんな時間におんちゃんは散歩してたのか。もはや散歩というより深夜徘徊だ。



 我々はランプを片手に静寂なシャヌラの町を闊歩する。


 民家からはちらほら光が漏れているが、ほぼ寝静まっている感じだ。外灯の明るさにより安心が保たれているが、町の外に出るとなると正直怖い。


「ご苦労様です」おんちゃんが急に声を出す。


 そして、反対から歩いて来た男性が会釈をする。


「知り合い?」ぼっさんの疑問。


「見回りの人」


「慣れた感じだね」うにやんの感想。


「何回も会っているからね。最初夜出会った時は怪しまれたけど、今では認知されてるから問題ないよ」


 おんちゃんは深夜に出歩く者として知られているのか……。それにより僕ら三人もその仲間として認められてしまったか……。



 想像通りではあるが町の外は暗く、ランプの明るさと天から降ってくる星からの反射光が頼りだ。


 この世界は星明かりというものはあるが、月明かりが無い。そう、月のような衛星が存在しない。故に地球よりも夜の暗さがあると思われる。だけど正直そこまでの差は感じられない。たくさんの星が顔を出しているから、むしろ明るく感じる。


 まぁ、そもそも地元の夜を出歩いていた時も明るい暗いを意識したことが無いので、比較は適当になってしまうのだけれども。


 前を歩くおんちゃんは足軽く進んでいるが、僕たち三人は足元を照らしながら少々遅れての歩きになってしまう。慎重に進むがため、会話をする余裕も無く静かな前進だ。


 冗談では無く、恐ろしい。


 こんな時ポエさんが居てくれたら、途切れずに話をしてくれて助かるのだが、今頃はメーネさんの家ですやすやだろう。もしくは愉しく会話をしているかだ。


「この林の中ね」おんちゃんが立ち止まり、これから歩く道を紹介してくれる。


 シャヌラの町から二十分ほど歩き木々の集まりにぶつかる。


「この先にいたの?」僕は疑問をぶつける。


「そうそう。……。大丈夫襲ってこないから」僕の懸念を察するおんちゃん。


 そして僕らは林の中へと入り込む。林といっても木々が密集して視界が悪い訳では無く、木と木の間は十分余裕がある。


 カスッカスッと木の葉を踏み踏みしながら、さらに突き進む。


「ほらあれっ」おんちゃんの足が静止し、僕らに声を掛ける。


 おんちゃんの体を挟んだその先には確かに動く物体が見える。まだ遠くに位置するので動く影としか視認できない。


 流石におんちゃんも先ほどまでの軽快な動きではなくそろりそろりと物体へと近づいていく。


 僕らも動くモノとの距離を縮め、ランプの明かりで物体を照らした。


 そこにはヒト、一人の人間が歩行しているのが見てとれる。


 ただ、すごく不自然だ。自然では無い。ゆらゆらとしており、目的を持って動くというより彷徨っているという言葉が似合う。そんな感じだ。


「でしょ?」おんちゃんが我らの反応を見るため振り向く。


 悔しいが、これは認めざるを得ないか。おんちゃんの言う通りゾンビの登場なのだと……。




 ここで僕は忘れていた。バットを持ってくることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ