妖精-10
翌朝、僕は部屋から出ると同時にうにやんも部屋から出てきた。
「おはよう、どうだった?」欠伸をしているうにやんに僕は聞く。
「うん。ボクも寝てないけど、代わりにポエさんをデッサンさせてもらったから満足だよ」
「そうなんだ。それなら良かった。ポエさんは?」
「今寝てるよ。ポエさんにも色々なポーズをしてもらったから、少し疲れさせちゃったかもしれない。だから起きてくるのが遅いかも……」
「分かったよ。皆に伝えておく」と僕はトイレへ入るためドアノブに手を掛けた。
「待って」うにやんが静止してくる。
「ん?」
「先に入らせて」
うにやんは用を足すと、自室へと戻り寝てしまった。
僕もトイレを済ませ、キッチンにいたぼっさんと、後から起きてきたおんちゃんにうにやんのこととポエさんが遅れて起きてくることを伝えた。
そんなこんなで我々はポエさんと行動を共にし、依頼処へ通い買い物をして帰る日々を繰り返した。そしてポエさんも話のネタが尽きたようで、寝る時のお話の時間も短くなり、僕らは十分な睡眠時間を確保することができるようになった。
コンコンっと家のドアがノックされる。
扉を開けるとメーネさんの姿がそこにはあった。
そう。
今日はメーネさんが旅行から帰ってくる日であり、ポエさんとのお別れの日でもある。
ポエさんとの生活も慣れてきたところだが、仕方がないことだ。
「メーネさんきたよー」僕はリビングにいるポエさんを呼ぶ。
ポエさんと他三人も玄関へと駆けつける。
ポエさんは両手にバッグを持ちながら、メーネさんの頭上に乗っているピィノくんへとベッドにダイブするかのように飛び乗った。
「ありがとうございました」メーネさんは僕らにお礼を言い「これお土産です」と紙袋を差し出す。
「いえいえ」と僕は土産袋を受け取った。
「メーネ聞いて、私、シキさんにプロポーズされたんだよ」
僕はポエさんの言葉に目を見開いた。
メーネさんがジト目で僕を見据える。
「違いますよ。言ってないですよ」僕は手を横に振り最大出力で否定する。
「えー。食堂で聞いた気がするけどなー」
「あの時も違うって言ったでしょ」ポエさんに顔を向ける。
「あーあと、それとね。私と寝る順番をみんなで話し合っていたんだよ」
「「「「ちがーーーう!!」」」」
今度はみんなで精一杯異議を唱える。
「いや、違わないんじゃない?」冷静になって意見を言うおんちゃん。
「うん。確かに話し合ってはいましたけど、そういう意味ではなくてですね……」と僕はあたふたしてメーネさんへと説明しようとする。
メーネさんはふふっと笑い「大丈夫ですよ。なんとなく想像できますから」と色々察した様子だ。
僕はその反応に安堵する。
「それでは」とメーネさんは踵を返して帰っていく。
その際、ポエさんはこちらに向き直り、笑顔で手を振ってくれた。
突如飛来した妖精さんが居なくなり、一週間が経過。
僕たちは以前の生活ルーティンに戻り、何事もなかったかのようだ。
ぼっさんが時々棚に置いてある小さな食器を眺めてはいるが、どのような気持ちであるかは分からない。また小さなお客様が来た時のために、あの食器に似合う料理でも考えているのであろう。
うにやんは創作意欲が湧いたのか、最近はずっと部屋に篭りがちで絵を描いているようだ。
おんちゃんはお菓子作りを始めた。ということは無く。いつの間にか居なくなり、ごはんができる頃には帰ってくるような行動パターンだ。
もちろん依頼処ギネガラへ行く時はみんな一緒である。
そして、明日も依頼処へ通う日であるため、今日はもう寝るのだ。
おやすみなさい。
「シキさん起きてー」
「…………」
「起きてってばー」
目蓋が引っ張られポエさんの姿が視界に入ってくる。
「ポエさん? どうしたの?」僕は朦朧状態で問いかける。
「ここ一週間メーネと色々出かけて来たの」
「…………」
「だから」
「…………」
「おしゃべりしましょっ」




