妖精-9
ここの氷が美味しいことは知っているが、味を変えたい。
「あのー。恐縮なのですが、氷にかけるものはないのでしょうか?」僕は三分の一食べたところで問う。
「今、彼が練乳を作っていますのでお待ち下さい」とケリップさんはキッチンに顔を向ける。
こちらに背を向けたおんちゃんが手を動かしているのが分かる。僕は隣に座っているぼっさんを見た。
「俺は氷を取ってきて疲れたから、おんちゃんに作ってもらってる」と無言の疑問に答えるぼっさん。
おんちゃんは自称お菓子作り経験者。であるからして任せているのだろう。
うにやん、ポエさんはケリップさんが氷を削る演出を眺めている。包丁が上下されるたび、氷の山が出来上がっていくのは面白いので僕も見入ってしまう。
人数分の氷山が出来上がると同時におんちゃんもボウルを持ちながらこちらにやってきた。
ぼっさんが立ち上がりスプーンを使用し練乳の味見をする。「うん。良いと思う」とぼっさん料理長の了承を得られ、おんちゃんはかき氷に練乳を掛けていく。
そして僕らは出来立ての練乳かき氷をいただいた。練乳はとても甘く脳が活性化する感じだ。
おんちゃんがお菓子作りの経験があるという信憑性が上がった。
「氷洞はどうだった?」僕はポエさんに感想を聞く。
ポエさんはスプーンを咥えたまましばし考える。
「また来たいと思わせる非常に良い空間だったわ。氷の中に閉じ込められた私を感じることができたわ」
「上々な評価なようで」
我々はケリップさんに食事代を支払い、喫茶ナガグツを後にして家路に着いた。
「ポエさん、先にどうぞ」お風呂当番のおんちゃんがソファの肘のせで横になっている妖精さんに声を掛ける。
「ありがとう。悪いわね」とポエさんはお風呂場へとルンルン気分で飛んで行った。
「…………」
「それでポエさんは今日、ぼっさんの部屋で寝るということだね?」うにやんが確かめる。
僕は昨晩ので出来事。ポエさんとお喋りをして、睡眠が十分に摂れなかったことをうにやん、おんちゃんにも伝えた。
「でも、おんちゃんは寝れたんでしょ?」うにやんはおんちゃんの顔を見る。
「寝たふりをした」おんちゃんは素直に答えた。
「うわっ。卑怯」僕は脊髄反射で口走る。
「この世は多少卑怯じゃ無ければ生き残れないのだっ」腰に手を当てるおんちゃん。
いつの間にか生きるか死ぬの問題になっている。まぁ実際死活問題に抵触する可能性がある。
「それじゃ順番として、明日はボクの番だね」怖気ずくこともなくうにやんは自分の身を捧げる。
「いいの?」僕は再確認する。
「話を聞いているだけでは、何も分からないからね。面白そうだからボクも体験してみたいよ」なかなかポジティブなうにやんであった。
翌日。
明らかに寝不足であろう表情のぼっさんがリビングの台所にいた。
僕はすぐに察することができたので、朝食の準備を率先して手伝う。
「どれくらい寝たの?」僕は恐る恐る問いかける。
「一睡もしてない」
「えっ!?」
驚愕な返答に大きな声が出てしまう。
「寝て良いよ。あとは僕がやっておくから」流石にこう言わざるをえなかった。
ぼっさんがリビングから出ていくとすれ違いにポエさんが入ってくる。
「おっはよーう」と元気大盛りで挨拶をする妖精さん。「今日はどこ行くの? 何するの?」っとウキウキブギブギ状態。ぼっさんとは対照的に健康の化身だ。
我々は朝食後、ぼっさんに留守番を任せて外出をした。
僕らにはもうポエさんを案内できるような場所が無い。すっかりネタ切れだ。そのことをポエさんへ正直に話すと
「来週メーネに色々連れて行ってもらうから大丈夫だよ。みんなの行動を優先して、私はそれについて行くから」と仰ってくれる。
お言葉に甘えて、僕らはいつものように依頼処ギネガラへと赴いた。
即日の依頼(荷物運び)を達成し、家へ戻るとぼっさんが夕食の準備をしている。どうやら体調は大丈夫のようだ。
僕たちはただいまと挨拶をしてから、パンと手作りハンバーグを頂いた。
食後、リビングにて皆で駄弁っていると「そろそろ寝るかー」っとおんちゃんが部屋へと行ってしまった。
続いて僕たちも各々部屋へと入っていく。
そして、ポエさんはうにやんへの部屋へと……。




