妖精-7
我々は洞窟の分かれ道に気をつけながら喫茶ナガグツへと進んだ。途中、おんちゃんがチョコメクジがいるかどうか確かめるために一人で別ルートへ向かったが、本体も便も無かったという報告を受けた。おそらく雨季を過ぎたから居なくなったのではと想像する。
洞窟の岩肌を触りながら進んでいると、『喫茶ナガグツ この先』と記されている立て看板へと到着した。
「この狭い道の先がゴールだよ」うにやんが頭に乗っているポエさんに教えてあげる。
「怪しいところにあるのね……。今日はお休みっていうことはない?」
「…………」
「大丈夫だと思う」おんちゃんが不穏な空気を払拭した。
立て看板の後ろを示してくるおんちゃん。
そこには『喫茶ナガグツ 本日お休み』と記述されていた。裏側に休業のことが記されているのであれば、今日は営業しているということだろう。
僕らは狭き道を進み喫茶ナガグツへと到着する。
外にはケリップさんの姿が確認できないので、右手にある扉をノックした。
少しの間。
眠気眼なケリップさんが登場。Tシャツに短パンとラフな格好だ。メガネもやや傾いている。
「すみません。寝てましたか?」
「ええまぁ。…………。あなたたちでしたか、どうしました?」徐々に表情から眠気が取れてくるケリップさん。
「朝食をいただきに馳せ参じました」
「おお! お客さんでしたか」
僕たちはニコッと笑顔で答える。
「あ、適当に時間を潰してて下さい。準備しますから」と家の扉を閉める喫茶ナガグツの店長。
僕は反対側にある空洞を眺めながら時を過ごした。前回は空洞下に水溜りがあったが、今は無し。
みんなは椅子に座って休憩をしている。
「お待たせしました」扉が開かれ、着替えを済ましたケリップさん登場。
前回同様、シャツにスラックス、サスペンダーとフォーマルな格好だ。それと黒のエプロンをしている。
「それにしても、また食べに来てくれるなんて嬉しいですよ」ケリップさんはコップとガラス製の水差しをテーブルに置く。
「こちらのポエさんが現在遊びに来てまして、それで色々な場所に案内している感じです」
紹介されたポエさんは慎ましくテーブル端に座りながら、会釈する。お腹が空いているのか、少々動作がゆっくりだ。
「どうもこんにちは、初めまして。違う。おはようございます、初めましてか」ケリップさんは自分で疑問を育みながら挨拶をする。「それと申し訳ないですれど、うちにはポエさん用の座席、食器類を持っていないのですが」僕たちにも顔を向けながら伝える。
「それなら問題ありません。そんなこともあろうかと」僕はリュックサックからミニチュア群を取り出す。
「持参していたのですね」
「昨日、買ったんですよー」不要な情報まで伝える僕。
「ではこれらを使わせて頂きます。ではでは準備しますね」ケリップ店長は小さな食器類を持ち、壁際に設置されているキッチンに向かう。
そして家から食材を運び出し、鼻歌まじりで調理を開始した。
「ポエさん水飲む?」ぼっさんが気遣う。
「飲むー」
「えーっと」水を入れる物を探すぼっさん。
「さっき、ケリップさんがポエさん用のマグカップも持って行ったよ」うにやんが見たことを話す。
「ここに入れてー」ポエさんがマスタード色のショルダーバッグから水筒を取り出す。
ぼっさんは手を震わせながら水差しを傾けて小さな水筒へ水滴を落とした。そして、ふぅっと一仕事終えた感じになる。
「ありがとっ」謝辞を述べ水筒に口をつけたポエさん。
じゅ〜。フライパン上で何かが焼かれる音が流れてくる。
「この岩に囲まれた空間はケリップさんのライブハウスと変化したね」うにやんがテーブルに両肘を預けながら言う。
「…………」
その言葉を拾う気力は無い。ごめん、うにやん。
匂いも漂い始め、ポエさんがスッと飛び上がり、ケリップさんが調理中の場へと近づいていった。水を飲んで元気を取り戻したみたいだ。もしくは料理の匂いで活性化されたか。
「ベーコン焼いてたよ」ポエさんがUターンして僕らに報告してくれる。
「楽しみだねー」僕は無難な返答をする。
「分厚いベーコンだった。私のベーコン」
「みんなのだよ」




