妖精-6
「ポエさんは食費が少なくて済むから、あれだよね。素晴らしいよね」僕は思ったことを口にする。
少しお腹を膨らませたポエさんは背もたれに頭を預けながら、こちらに振り向く。
「プロポーズ?」
「違うよ」
我らは食後のチーズケーキを堪能し、食堂パルリークから家路に着いた。
午前中に各場所を歩き回ったせいで足が棒である。各々リビングでぐったりしている。
「そういえば雑貨屋でどんなの買ったの?」僕は対面のテーブル席に座っているぼっさんに話しかける。
「あぁ」と紙袋からちり紙の塊をいくつか取り出す。
食器類なのでちり紙をクッションにしているということだ。
慎重な手つきで紙装甲を取り除き購入した品がテーブルに置かれる。
白を基調としたシンプルな皿が数点、それとグラスにマグカップ、フォークにナイフ、スプーン、さらに机と椅子。それらがテーブル上にセットされる。まるでドールハウスの小道具だ。
「私はこれ買った」ポエさんが羽色と類似の緑なお皿を取り出す。
「鮮やかな塗りで良さげだね」
ふふんと得意げになるポエさん。
「あ、お皿しか買ってないので、やっぱりこれらを使わせてね」と机上のミニテーブル席にスポっと入る。
「どうぞどうぞ」と僕とぼっさんは是認。
「疲れたから昼寝してくる」とおんちゃんは部屋に戻り、「ボクも自室で絵の続き描いてくるよ」とうにやんも退出した。「私も絵を見るー」とポエさんはうにやんの部屋へと行ってしまった。
「…………」
僕とぼっさんはリビングに残り、一息つく。ポエさんが来訪する前の静けさを感じる。
「ねぇ」ぼっさんが口を開く。
「ん?」
「今日の夜ご飯はハンバーグで良い?」
「駄目」
昼頃に晩飯の献立の話題が出たが、夕方になってもお腹が空かない。ランチの量が多かったみたいだ。この現象は他の同居人も一緒なようで、夕食は各自適当に軽く済ませることとなった。
その夜、自室のベッドで寝るために横になったところ、コンコンココンと扉がノックされる。ベッドから立ち上がりドアノブを回すと、妖精ポエさんがチェックの寝巻き姿で浮遊していた。
「あれ、おんちゃんの部屋で寝てたんじゃ」
「おんちゃんすぐに寝ちゃったから、話し相手になって」
僕も眠いけど、お相手しよう。懇願されては断れない。
だが、この判断は間違っていた……。
ポエさんのおしゃべりは止まらない。家族から友達、王都での出来事、加えて好きな本や服の話などの趣味嗜好、お題は尽きなかった。
僕も最初の内は面白がって聞いて、疑問に思ったことは問いかけていたが、このままだと朝になってしまうと判断し、「寝ましょう」と声を掛けるが、「もうちょっと」と延長をお願いされる。強行手段で目を瞑ると「起きてー」と頬や耳を引っ張られてしまう。
おんちゃんはよく寝ることができたなと感心してしまった。
結局、朝五時まで楽しい愉しいお話が繰り広げられ、三時間ほど睡眠時間を確保することに成功したのだった。
もっと寝てたいという気持ちではあるが、今日は朝からみんなで喫茶ナガグツへ行く予定を決めていたので起きざるをえない。
「おはよう。眠そうだね」
目蓋が半分下がっている僕を見て、ぼっさんが声を掛ける。
僕は事情を説明した。
「それなら今日は家で休んでおく? 俺ら三人でポエさんと出かけてこようか?」
うーっと悩むが「いや行くよ。僕も喫茶ナガグツにもう一度行きたいから」
「そう」
「その代わり、今日の夜はポエさんの話相手になってあげて」
「了解した」
我々は上着と手持ちランプを用意し、喫茶ナガグツが存在するボンツ山へと移動する。
前回氷処ケビスイからの依頼でボンツ山へと進んだ際は雨降りな日で足取りが鈍かったが、今回は天気も良く雨具を持参してないのでお散歩気分で草原を闊歩できる。僕の眠気も風に吹かれたタンポポの綿毛のように吹き飛んでしまった。
「洞窟の中はやはり涼しいねー」うにやんが水筒の水を飲む。
「うん。避暑地としては適している」ぼっさんが受け答える。
「ここに住みたいぐらいだ」おんちゃんの適当な言葉。
「そうだね」僕の曖昧な返事。
「本当にこんなところに喫茶店があるるの?」ポエさんの変な質問の仕方。
「あるるよ」
「あるのね……」ポエさんは洞窟奥の深淵を見ながら訝しむ。「質問の語尾がおかしかったのは、空腹でちょっと呂律が回らなかっただけだからね」少し頬を染めながらこちらへ振り向いた。
喫茶ナガグツに到着する時間を考慮して朝食抜きで来たけど、流石に食べてくるべきだったか。
「そういえばポエさんは魔法使えるの?」ぼっさんが手持ちランプに火を入れながら問う。
「使えないよ。みんなは?」
四人衆は一斉に首を横に振る。
ポエさんは「じゃあ一緒だね。いえーい」と声を反響させ、僕らと順番にハイタッチした。




