妖精-5
買い物を終え、昼時になったので外食をしていくことに。
「何か食べたいものはある?」ポエさんに聞いてみる。
「美味しいもの!」元気いっぱいな返事である。
それでは贔屓にしている、食堂パルリークへ。この町に来てからチヴェカさんに連れていってもらったお店だけど。味は保証できるのでバイタリティ溢れる妖精さんにも満足して頂けるでしょう。
石造りの食堂パルリークは今日もお客さんで活気付いている。
店員さんに円卓のテーブル席に案内していただく。やはりというか、当たり前のようにポエさん用の椅子と机をすぐに持ってきてくれた。
この町、いやこの国ではポエさんのような人に対しても気遣いができている。ポエさんと共に行動することで、この世界の新たな側面を知ることができた。
「何にする? 何を注文するの?」ぼっさんが開いたメニュー表を俯瞰しながら羽と腕をバタつかせるポエさん。
このような細かな動きはとても可愛らしい。
「食べたことがない料理がいいなー」おんちゃんが心の声を漏らす。
「ときにポエ氏、気になる品はあるかい?」僕は尋ねる。
「うーん。そうねー」と顎に手を当て悩む仕草をする。「次のページへめくってもらっていいかしら?」
ぼっさんはページをめくる係。
ペラッ。
「これはどうかね?」メニュー表を指差しながらも、口調がどこかおかしくなっているポエさん。
空腹のせいだろう。多分。
「とてもミートパイ」ぼっさんが声に出す。
小さな注意書きで『大きいよ』と記されている。
「どれくらいの大きさなんだろう」ともっともな疑問なうにやん。
「聞いてみようか?」おんちゃんが気を利かせる。
「お願い」
「すみませーん」と店員を呼ぶおんちゃん。
パタパタと小走りでやってくる女性店員さん。
「この、とてもミートパイって何人分ですか?」
「五十人分ですね」
「分かりました。ありがとうございます」
ごゆっくりーと言って去っていく店員さん。ついでに水が入ったグラスを置いていった。
「聞いてよかったねー。頼んでたら死んでたよ」うにやんがグラスに口をつける。
死ぬことは無いでしょ。
「ミートパイが食べたいなら普通のサイズで良さそうだね」と僕。
「俺はミートパイで良いよ」とぼっさん。「ポエさんはミートパイでよかった?」
「そうね。久しく食してないから構わないですわよ」ますます口調がおかしくなる。
僕もうにやん、おんちゃんも異存は無しということで修飾語が無い、無印のミートパイを注文した。一つで二人前だと教えてもらい、二つ注文。
「ポエさんはたくさん食べられるの?」とぼっさんが問いかける。
「へ? 普通だと思うよ。あ、私たち妖精と比べて普通ってこと」専用席からぼっさんを見上げながら答えるポエさん。
「自身の体積以上食べるという特徴はないよね?」
「あはははは、そんなことできるわけないでしょ。私は華奢な女の子なのよ」彼女は足をバタつかせ笑った。
ぼっさんが気になったことは理解できる。海外アニメに出てくる妖精は僕たちと同じ量の食事をして、腹を膨らませるというイメージがある。ぼっさんの質問で僕もすぐに想像できた。
「メーネから聞いているけど、あなたたちは異世界から来たのでしょう。異世界の妖精はそんな芸当ができるの?」息を吐きながら問うてくる妖精さん。
「いやいや。俺らの世界には妖精はいないよ。作り話では出てくるけど」
「あ、そういうこと。お話の中の妖精の特徴なのね」
「そうそう」
「あ、でも大食いな妖精もいるから、みんなの想像している妖精がいるかもしれないわ」
まぁ我々人間でも小食、過食な方はいるのだから妖精界隈でもそんな感じなのだろう。
それからはポエさんのリクエストに答え、僕らの世界の話をしながら料理が来るまでの時間を過ごした。
「おっまたせしましたー」先ほどとは別の活力のある女性店員さんが注文の品を持ってくる。「こちらがミートパイとミートパイです。それと取り皿ですねー。ごゆっくり〜」と髪の毛とスカートを翻し去っていく。
「変わった店員さんね」
ポエさんに言われるとは相当だ。
切り分ける係のぼっさんが、艶やかな円形のミートパイをピザを切り分けるようにナイフを挿れる。サクっと音と共に中に入っている挽肉の層が露わになる。
「その挽肉の中を泳ぎたくなるわ」前のめりなポエさん。
何を言っているのかね。
「ポエさん、これぐらいの量で良いかい?」小さな皿に生地と挽肉が置かれる。
「大丈夫よ。ありがとう」
皆の前にミートパイが行き渡ったところで、早速いただきますをして食事を開始。
うん。初めて食べるけど、生地に包まれたハンバーグだ。もちろん美味しい。
ポエさんもんんんんんんんと唸り声を上げ、目をくの字にしている。
「このパイ生地のテカテカは焼く前に溶き卵を塗ることで表現しているんだよ」ぼっさんの豆知識。
「へぇー」




