妖精-3
「喫茶ナガグツへ行ってみる?」うにやんの発案。「あすこは良い場所だと思う。きっと王都にもないと思う」
「あー。選択肢だと思う」僕は賛同する。
「でも結構距離あるよねー」自分でネガティブキャンペーンをするうにやん。
「明日か明後日にでも行こうか」とぼっさん。
「よし行くぞと意気込まないと向かえないよね。あとランプと長袖必要だし」と僕。
「なぁにナガグツって?」ポエさんがぼっさんの頭の上に寝そべっている。
羨ましい。
「洞窟の中にある喫茶店だよ」上目遣いでポエさんの方向に向かって喋るぼっさん。
「遠いんだ」
「そういうこと」
「流石に陽が登ってきて暑くなってきたねー」うにやんが手で陽光を遮るように天に顔を向ける。
「それじゃ近場で涼みに行こうか」今度は僕の提案。
「いらっしゃい。今日も来てくれてありがとう」
赤橙な前髪を斜めに流したキヌモアさん。
「いやはや。本日は冷やかしですけどね」僕は笑う。
そう。最近の暑さもあり、ちょくちょく氷処ケビスイに氷を買いに来ているのだ。
「あら、残念」と我々に一口サイズの氷を施してくれる彼女。
僕らは感謝を述べ、お皿から冷たき塊をいただく。
ポエさんにも気付いていたようで、さらに小さな氷も用意してあった。すぐに水になってしまいそうな大きさだ。
「あれから、この前の洞窟で氷を採取しているのですか?」ぼっさんが氷を頬で転がしながら質問する。
「採取とまではいかないけども、改めて氷処のみんなで様子を見ましたよ。あと、ケリップさんにも挨拶をしましたね」キヌモアさん自身もヒョイっと氷を口に入れる。「それで、今日は皆さんで何をしているのですか?」
「王都から来たポエさんに町の案内をしています」ぼっさんはポエさんを紹介しながら答えた。
「あら、そうだったんですね。それでうちに来てくれるなんて嬉しいです」
「僕らもシャヌラに詳しいわけではないので、数少ない知っている場所を選んだだけなんですけねー」氷処へ行くことを決めた僕が言う。
「キヌモアさんでしたら、どこを紹介しますか? 観光してる人に対して」うにやんが質問する。
「そうですねー」と顔を左右に揺らしながら考えるキヌモアさん。
さらさらな髪の毛が追従して動き、僕たちもそれを目で追ってしまう。
そして彼女は「あっ」と何か閃いたかのように動きが一時停止する。
「観光名所ってわけではないですけど、ミニチュア雑貨はどうですか? ポエさん用の食器とかが入用ではないですか?」
「あぁー。確かに」
我々の家にはシュモイン家のようにポエさん用のモノが無いので、いろいろと困るかもしれない。いや困る。
「いらっしゃいませ」氷処の人の声が響く。
入り口の扉からお客さんが入って来た。
お客ではない僕たちは早めにお暇するのが良いだろう。
「分かりました。その店に行ってみますね」
っとキヌモアさんにミニチュア雑貨屋の場所を教えてもらい氷処ケビスイを後にした。
「それにしても、キヌモアさんからもシャヌラの名所を聞けなかったね」うにやんのセリフ。
「やはり、シャヌラにはそのような場所は無いってことだろう」おんちゃんのセリフ。
「食器とか、家具とかはそのミニチュア雑貨屋で買えるとして、衣服の替えとかは持ってるの?」ぼっさんがポエさ
んへと向けたセリフ。
「それは問題なしです。着替えだけは持ってきてるよ、みんなの家へ置いてきてるよ」うにやんの肩に腰掛けているポエさん。「あ、食器とかも自分で買うから気にしないで」
「そう?」安い買い物であれば皆の共通貯金で買うことも可能であるが、ポエさんがそういうのであれば。
「いや、ここは私たちで購入しよう」おんちゃんが両手を上げる。
意味不明な動作だ。
「みんながお金持ちでないことはメーネから聞いてるのでそれは良く無いと思うよ」ポエさんが肩から離陸し、僕らの対面に位置する。
「まぁまぁ私の意見を聞いてくれたまえ」上げた両手を水平にし、ポエさんに手のひらを向ける。「ほら、カラルル氏の家でもサイズが小さい人用の食器を常備しているじゃん。だから私たちもそれらを持っておくべきだと思うんだ。また新たなお客さんが突如現れるかもしれない」おんちゃんは僕たちにも向けて説明する。
それは一理ある。
「そういうことであれば僕たちのお金で購入しても良いと思うよ」とりあえず僕は賛成。
ぼっさんとうにやんからも異議はあがらない。
「反対ッ!」ポエさんから異議が噴出した。




