妖精-2
僕はうにやんへ事情を説明する。
「確かに、自分の肩に妖精が乗って下さるという願望はありだね。ボクも是非ともお願いしたいところ」共感してくれるうにやん。
うにやんとのファンタジー談義に花を咲かせているとシュモイン家へと到着した。
「あっ!」僕はあることを思い出し、大声を上げてしまう。
当然のようにみんなが振り向く。
「どうしたの?」ぼっさんが聞いてくる。
「手土産忘れちゃった。ファレサさんに」
目を細め少し考えるぼっさん。
「ほら。この前トロールドラゴン討伐時に弁当もらったじゃん。ソルドさん経由で」
「あぁ」とぼっさんの疑問が氷解する。「仕方がないよ。取り敢えず今回は言葉だけのお礼に留めておこう」
「そうするしかないかー。すっかり失念していたよ」
その横でおんちゃんとうにやんがポエさんにドラゴン討伐のこと、ファレサさんのことを説明していた。
シュモイン家の庭先にはソルドさんの姿が見えた。どうやら掃除をしているようだ。
僕らは門越しに「おはようございまーす」と声を出し、手を振る。馴れ馴れしいだろうか。いや何回も行動を共にしているのだから大丈夫だろう。
「おはようございます」スタスタと歩み寄り挨拶を返してくれるソルドさん。相変わらず眠そうな表情ではあるが、一瞬おんちゃんの肩にしっかりと視線を動かした。
「えーっと。カラルルさんかケイラさんいらっしゃいますか?」
「カラルルさんでしたら御在宅です」
「えっ。ケイラさんは?」おんちゃんが素早く反応する。
「出掛けております」
ソルドさんの答えに落胆するおんちゃん。
それから、僕たちは客室へと案内され、カラルルさんを待つことになった。
「それにしても大きなお家ねー」ポエさんが窓の外を覗きながら呟く。
ガチョっと扉の取手が下がる音がして、ソルドさんが入ってくる。
ローテーブルにお菓子とティーカップが四つ、それとハンカチサイズの水色の敷物が開かれ、その上にミニチュアのテーブルと椅子がセットされた。そして小さなティーカップも置かれる。
我らは目を見張る。
「こんな小さな家具や食器を持っているのですか?」
「はい。どのような客人が来ても対応できるよう様々なサイズを所持しております」
へーっと改めて感心する僕たち。
「ありがとうございます」とポエさんは礼儀正しく小さな小さな椅子に着席する。
「独特な風味ですね」ポエさんはカップに入っている青茶を飲むと感想を伝える。
「シャヌラ原産の茶葉を使用しています」
「シャヌラの町で茶畑を見たことないのですが」とおんちゃん。
頻繁に散歩をしているおんちゃんが言うのだから説得力がある。
「町中ではなく周りの山で栽培しているのです」
「なるほど。そういうことでしたか」
再びガチョとという音ともにカラルルさん登場。そしてソルドさんは退場。
「朝早くにお邪魔してすみません」
「いーえいーえ。どうしたのですか?」着席するカラルルさん。
僕はポエさんを紹介して、メーネさんの友達であり、王都から遊びに来たこと、メーネさんが旅行に出掛けてしまい、我々がシャヌラの観光名所、遊ぶところを案内しようと試みていることを伝えた。
「ありません」カラルルさんはスッパリ物申す。「私も生まれてからずっと住んでいますけど、やることが無さすぎて絵を描き始めたくらいですからねー」
絵描きのきっかけはそういうことだったのか……。
「そうですねー。でも、王都には無くてシャヌラにあるものや場所などに案内するのはどうでしょうか? 私も王都は詳しくないのでどこを紹介するとは言えないのですが」
「いやいや。参考になりました」
「王都との違いねぇ。それを俺らが考えるのは片秀だよねー」とぼっさんが青空に声を掛ける。
「それにしてもカラルルさんはポエさんの姿を見ても驚かなかったね」
「そうだね。ソルドさんも通常運転って感じで。それ以上に即ポエさんに対応していたもんね」うにやんが答えてくれる。
「つまり妖精には見慣れているってことか」おんちゃんが前を飛んでいるポエさんを見る。
「この町にも妖精は住んでるわよ」くるりと振り返り僕たちに言葉を降らせるポエさん。
「えっ。僕たちも三ヶ月以上住んでますけど、見たことありませんよ」
「うーん。人数は少ないかもしれないけど、意識して見てないだけじゃないかしら」キョロキョロと辺りを見回す妖精ポエ。
「この近くにいそうですか?」
「いません」




