洞窟-8
「……美味しい」キヌモアさんが氷を口に含みハッとする。「ご主人、これを何処で?」
「洞窟の奥で取ってきたやつですよ」石釜に木の枝を入れている男性。
「おぉー」っと感嘆する我々。僕たちの反応に対して男性は不思議がり振り向いた。
「私たちこの洞窟に氷を探しに来たんです」キヌモアさんは声を大きくする。
「あぁ。そうだったんですね。それでしてら後ほど氷のある場所まで案内しますよ」
「お願いします。ありがとうございます」こうべを垂れるキヌモアさん。
「承知しました。あ、食事はホットサンドと碧茶ですけど大丈夫ですか?」
「はい。もうなんでも良いです」キヌモアさんは浮かれた様子だ。
男性は朗らかな顔でよしと頷き、石釜に火を入れた。
「お名前を伺ってもよろしいですか? 私はキヌモア・クブカ。氷処のものです。」
「そうでしたね。私はケリップ・セセタタです」
次いで僕たちも自己紹介を終える。
「それじゃあちゃちゃっと作りますので、もう少しお待ちください」ケリップさんは扉の奥から食材やフライパンを持ち運び、慣れた手付きで作業をしていった。
僕は空洞下の水たまりにて何か生き物はいないだろうかとジロジロ目を凝らし探していると「出来ましたよー」とケリップさんの声が聞こえてきた。特段何もいなかったので声に導かれテーブルへと戻る。
テーブル上には人数分のホットサンドと碧茶が置かれており、すぐさま各々いただきますをしたりしなかったりで食べ始めた。
ホットサンドは卵とベーコンが挟まれており佳味である。
「これらの食材はシャヌラで調達しているんですよね?」おんちゃんがケリップさんに質問する。
「そうです。週に一回買い出しに行ってます」ケリップさんも同じテーブルで食事を共にしている。「最近は雨が多いので町に行くのも億劫なんですけどね」と軽く笑った。「皆さんは……そうか氷を探しに来たのでしたね」ケリップさんは再び笑った。
「どれくらい、ここに住まわれているのですか?」ティーカップで碧茶をいただくキヌモアさん。
「うーん。もうすぐ二年経つ頃かな」
この場所にそんなにも……。
「それまで誰も訪ねて来なかったんですね」うにやんは両手でホットサンドを持っている。
「そうです。一年経った頃、流石に退屈になってきたというか、魔が差したというか……スプリング遊具を作って洞窟内に置いたんですよ」
皆食事の手を止め口をあんぐりさせた。
「あれ、もしかして見つけてもらいましたか?」僕らの様子から感じ取るケリップさん。
「はい。本物のウルフレームかと思っちゃいましたよ」ぼっさんが答える。
「あはは。すみません。まぁそういう驚かす意図もなくはないのですが、洞窟内に人がいますよというメッセージを伝えたかったんですけどね」ケリップさんは口を大きく開けて笑った。
「お客さんに来て欲しいなら、町中でチラシを配布して宣伝した方が良くないですか?」おんちゃんがティーカップを持ちながら喋る。
「それも考えとしてはあったのですが、私としては偶然見つけて欲しいんですよね。だけど看板や遊具を置いている時点でもう偶然性は薄くなっちゃいましたけど」
あぁ。それは分かるかもしれない。お客さんにお宝を発見したような驚きを与えたいという感じだろう。そういえば、先ほどのぼっさんとキヌモアさんの会話の内容とも似ている気がする。さりげなくお菓子を置いて相手に食べて喜んでもらいたいということと。
二人の様子を見ると、うんうんと頷いてケリップさんの思想に同意していた。
「ケリップさんは洞窟デザイナーですね」うにやんの唐突な発言。
「…………」
「すみません。適当なこと言いました」謝罪するうにやん。
「いやいや。私もそんな風に自分のこと、肩書きなんかを意識したことはなかったのでビックリしただけです」とケリップさんは仰った。
「なんだかカッコイイですね」キヌモアさんが目を輝かせる。職業柄、洞窟や氷という単語が付く肩書きが好きそうだ。
「でも洞窟自体を掘ってデザインしている訳ではなく……ただ物を配置しているだけなんですけど、それでも洞窟デザイナーと呼べるのかどうか」謙虚な姿勢のケリップさん。「今言葉にしながら思ったんですけれども、自分で洞窟を拡張していくのも面白そうですね。そうすれば喫茶ナガグツ店主兼洞窟デザイナーを自称できそうです」
ケリップさんは洞窟デザイナーという職業に興味を示した。
「事故で生き埋めにならならいで下さいよ」ぼっさんが警告する。
「そうか。落盤の可能性がありますね。それは怖いので、やはり辞めておきましょう」
ケリップさんは洞窟デザイナーの道を閉ざした。




