洞窟-5
「あれってチョコメクジではないですか……」キヌモアさんがドロドロ生物を見ながら述べる。
チョコメクジはチョコレートが溶けたような体を特徴とするナメクジであり、稀に排泄物の中に赤色の透明度の高い石が混ざっている。その石はチョコメストーンと言われ、高値で取引されているらしい。つまりおんちゃんのお宝発言はあながち間違ってはいない。
チョコメクジは僕らの気配を察知し、ナメクジならぬ速さで壁を這いずり、上の空洞から出て行ってしまった。
「ああー。もうちょっと近くで見たかったなー」うにやんがしょげる。
「でもあれが例の」ぼっさんがあたりを見回す。
雨が降り注いでいる箇所を挟んで反対側にはピンク色の小山が数十個単位で地面に置かれている。あれは決してイチゴ味のチョコレートではなく、チョコメクジの便であろう。
つまりあの中にはチョコメストーン、お金が入っている可能性が……。
僕はぼっさん、うにやんと見合わせ頷く。おんちゃんはすでに軍手を装備して小山を漁っていた。
僕らもすぐに反対側へと移動し何かほじくるための道具を探してみるが特に見つからない。仕方ないのでおんちゃんを見習い僕らも軍手を装備し腰をおろすことに。
桃色のそれは雨に当たってないにしろ柔らかく崩しやすい質感である。これなら短時間で全てのモノを開示できるであろう。二人で依頼を受けるのではなく、やはり四人で来て正解だったのだ。
「…………」
四人……。
ハッ!
後ろを振り返り見上げると、キヌモアさんが悲観的な表情でこちらを見下ろしている。
「いや、これはチョコメクジのフンの中には赤い石がありまして、それで」僕は急いで立ち上がり、動揺しながらも言い訳、じゃなくて説明をする。
「あ、いえ、分かっていますのでお気になさらず。ただ……」
「ただ?」
「本当にお金に困っているのだなーっと思い、悲しさというか可哀想というか」口を手で抑えるキヌモアさん。「すみません。決して侮蔑な気持ちはありませんので……気にせずチョコメストーンを探してください。私はあっちで休憩をしていますので……」そう言ってキヌモアさんは部屋の隅へと駆けていった。
「…………」
「シキさん手が止まってるよー」ぼっさんの声が離れた場所から聞こえる。
もうプライドとかそういうものは要らなくなった。これで思う存分に宝石探しができるのだ。
僕は分別できない気持ちを携えながらも再び腰を下ろし、潮干狩りのようにせっせと手を動かした。
結果から先に言うとチョコメストーンを見つけることはできなかった。辺りには僕らが分解した桃色の花弁が散っているだけだ。
我々はだんまりしながら水たまりで軍手を洗い、キヌモアさんと合流した。
「お待たせしました……」話しかける僕。
「その様子ですと見つからなかったのですね」僕らの俯き加減な姿を見るキヌモアさん。
コクリと頷く我々。
「しかしブラックチョコレートのように苦い思い出ができました」おんちゃんが締める。
「…………」
フフッと吹き出すキヌモアさん。その後、軽快に笑い出した。
おんちゃんの締めの言葉なのか僕たちの珍妙な行動がツボに入ったのかは分からないが、このように口を開けて破顔するキヌモアさんはとても魅力的で、これだけでも汚仕事をした甲斐があったと思う。
僕たちも誘い笑いを受け、全員の笑声はうんちな匂いと共に大きな風穴から吹き抜けていった。




