洞窟-4
「ごめんなさい。そんなに落ち込むようなことだと思わなくて、余計な質問を」キヌモアさんがあたふたして手持ちランプも揺れている。
「いえ、大丈夫、です」ぼっさんが立ち上がり意識を回復させる。
「私たち氷処も少数ではあり、効率的に動こうという考えがありまして、それでついつい皆さんの行動が気になってしまいました」正直に述べるキヌモアさん。
「確かに今回の依頼は四人も要らないと思います。二人でこなして、他の二人は別の依頼を探した方がお金は稼げるでしょう」ずれた眼鏡を直すぼっさん。
「アイデンティティだから、アイデンティティだから」ノイズが聞こえてくる。
「だけど、四人で行動するからこそ楽しさや苦しさの共感ができ、どんな単調な依頼でも苦にならずに続けられるのです。そう四人で依頼を果たすことは私たちの処世術なのです」ぼっさんが空いてる手を腰に当てる。
「な、なるほど。仕事の内容によりただ人を分けるのではなく、人の感情、気持ちを意識しての考えだったのですね。勉強になります」感心するキヌモアさん。
僕としては一人で依頼を受けたいときは稀にあるけども、話がこじれるので今は黙っておこう。
ぼっさんからの御言葉によりみんなの心が再起できたので、改めて洞窟奥へと足を運ぶことにする。
「洞窟といえば何が思い浮かぶ?」質問する僕。
歩き始めてから一時間経過、慎重に進んでいるため、そんなに距離は稼いではいないと思う。特に何かが起きることはなく退屈であり、ついつい会話をしたくなってしまった。
「トラップとか?」おんちゃんが答えてくれる。
「罠は遺跡とかじゃないの? うーん、かといって何も思い浮かばないなー」ぼっさんが難色を示す。
「お宝とか?」うにやんの発想。
「あぁ。ゲームではよくあるね。でも実際、洞窟にお宝ってあるものなのかね」僕の意見。
「戦時中だと洞穴や建物の地下に美術品を隠すとかはあったのかもね」ぼっさんの見解。
「この洞窟にもそういう物があるかも」おんちゃんが期待の声をあげる。
「分かれ道ですね」一時停止するキヌモアさん
声を耳にして僕らも立ち止まる。ランプの灯を前方に照らすと、左右に別れているのが見てとれる。
「どちらに進みましょうか?」僕は尋ねる。
無言で左右を往き来するキヌモアさん。「左に行きましょう」
「何か分かったんですか?」
「左は若干温度が低い感じがしましたので」
「なるほど。低温の先に氷がある可能性が高いわけですね」
「そういうことです」
「それじゃ左へーーー」
「右にお宝があるかもしれない」おんちゃんの唐突。
「…………」
「気持ちは分かるけど、今回ばかりは依頼優先なのでキヌモアさんに従おう」ぼっさんが説得に入る。
「別に構いませんよ」とキヌモアさん。
「エッ!」と驚くぼっさん。
「まだ時間もありますし、もしかしたら右に氷があるかもしれませんしね」
「ありがとうございます」おんちゃんがお辞儀をする。
そしておんちゃんを先頭にして三叉路を右に進む我々。
「本当に良かったんですか?」僕は心配になりキヌモアさんに声をかける。
「問題ないですよ。山の大きさからしてももうそんなに奥深くはないはずですから。それに」
「それに?」
「私もお宝に興味がありますので」微笑むキヌモアさん。
「それは僕たちの想像であり、妄想で、儚い願望ですよ」
「あっ」先頭のおんちゃんの声が響いてくる。
僕らも前を見据えると、先が明るくなっていることが確認できた。
その地点は円形状の広い部屋で、天井には大きな空洞があり、そこから外の明かりが注ぎ込まれている。空洞を良く見ると、雨足とコウモリの姿が視認でき、少々幻想的な光景で目を奪われてしまう。
「あっ! お宝っ!」おんちゃんが叫声をあげる。
お宝という言葉に反応し、おんちゃんの視線の先に電光石火の如く颯爽と顔を向ける我々。
そこにはドロドロとした物体が地を這っていた。




