洞窟-3
「趣味……ですか」キヌモアさんが目を丸くする。
そうか趣味だったのかっと僕も目を丸くする。でもまぁ確かに趣味なのかもしれない。自分たちの望むもの、ドラゴンを見たい、狩りたいという欲に対価を払ったのだから。
「素敵な趣味だと思います」顔が明るくなるキヌモアさん。
ストレートに言われるとなんだか疑いを感じるが、どちらにせよできたお人だ。これが社会人か。
「そうですかぁ」と言った張本人のおんちゃんが照れる。
「キヌモアさんは趣味、ありますか?」ぼっさんが湿った草地に足を取られながら質問する。
「あぁ。特にこれといった趣味は持ち合わせてないですねー」ゆるゆると流れる雨雲を見上げるキヌモアさん。
「それでは休日は何を?」
キヌモアさんはうーんと唸る。「喫茶店に行ったり、友達とご飯食べに行ったり、本読んだりと……あとは連休があれば隣町のアクアサに遊びにいくとかもありますね」
「なるほど。そういえば俺たちアクアサに行ったことないね」
「そうだね。またお金に余裕ができたら行ってみようか」僕が答える。
「確か港町だよね。町長さんから聞いた話によれば」ちゃんと覚えているうにやん。
「そうですよ。王都や色々な町から品が流れてくるので、ショッピングにはもってこいです」グッっと握りこぶしをするキヌモアさん。
こんな感じで人並みな会話をしつつ僕らはボンツ山の麓、洞窟へと到着した。
洞窟はかまぼこのような入り口をしており、天井までの高さが五メートルほどある。奥は明かりが無くただただ暗闇が存在するだけだ。
「なんだかお化け屋敷みたいだね。ベタな例えだけど」うにやんがレインコートを脱ぐ。
「お化け屋敷は安全が確保されているからまだましじゃない」ぼっさんもレインコートを脱ぎ、突出している岩に引っ掛ける。
「そうか、それじゃ命懸けのお化け屋敷にきたみたいだね」うにやんが言い直しぼっさん同様レインコートを岩にかぶせる。
「命懸けという時点でもうアトラクションとしての認可が下りないでしょ。中で待機している人が本気で襲いかかってくるの?」僕は手持ちランプに火を入れる。
「そうそう。脱出ゲームの正解率〇・一パーセントみたいな感じで、生存率三〇パーセントという謳い文句にして」
「そこは〇・一じゃないんだ」
「低すぎると誰も来なくなっちゃうからね」
「まぁ本当に命を取り扱わなくても、心拍数がある閾値を越えたら駄目とか、キャストに捕まったらアウトにするのも良いかもね」ぼっさんが提案をし始めた。「あ、でも転倒の恐れがあって危ないかー」独り悩む。
「キヌモアさんもランプ使うのですね。てっきり魔法を使用するのだと」僕はキヌモアさんがランプを灯すのを見て質問する。
「えぇ。魔法も体力を消耗しますので、なるべく使わないようにしていますね」
「魔力だ」おんちゃんが反応する。
「うん。マジックポイントってやつだね」うにやんも素早いリアクションをとる。
「俺もそんな台詞を言ってみたいなー」ぼっさんが悩み終え話に入ってくる。
「憧れるよねー」僕もキヌモアさんの言葉に魅了される。
キヌモアさんは我々からの羨望の眼差しを受けながらも「それでは行きましょうか」と冷静に促してくれる。僕たちの扱いに慣れてきたのか、大人だからかは分からないが、頼もしい。
そして僕らはキヌモアさんを先頭にしてダンジョンへと入っていった。
「あのー。一つ気になることあるのですが質問してもいいですか?」歩き始めて数分後にキヌモアさんの声が反響する。
「は、はい。何でしょう」緊張しているなか声を掛けられたので言葉がつっかえる。
「依頼事を行う際はいつも四人で行動を共にしているのですか?」
「はい。そうですよ」
「金銭にお困りでしたら、バラバラで依頼を受けた方がより多く稼げると思うのですが……どうなんでしょう?」
ハッと洞窟の中なのに稲妻が落ちる我々。
「そ、それは、よ、四人で受ける方が効果的というか、有効的というか」僕はぼっさんに顔を向ける。
しかし、横にぼっさんの顔は無く、膝をつき立ち崩れていた。
うにやんは両手で顔を覆い、おんちゃんは「アイデンティティだから、アイデンティティだから……」と小さな声で連呼する呪いの人形と化した。暗闇の中、顔付近にだけランプが照らされており余計不気味だ。
ダンジョンに潜ってから僅か数分、キヌモアさんの問いかけにより僕ら四人は……。
壊滅した。




