洞窟-2
「どういうこと?」ぼっさんが僕に顔を向ける。
「うん。僕らは洞窟のことに詳しくもなければ、魔物を退ける力もないでしょ。その両方を持っているキヌモアさんの足手まといになるのではないかとふと頭をよぎって」
「あぁ」そういことという顔をするぼっさん。
「私の説明不足なところがありましたね。申し訳ありません。それでは、私たちが依頼を出した経緯から説明させていただきます」キヌモアさんが改める。「シキさんがおっしゃる通り最初は私一人で洞窟探索をするつもりでした。ケビスイは従業員が多くはないので洞窟探索には人手が避けないという状況でして」カウンター奥の人たちに顔を向けるキヌモアさん。「しかしならば、一人で洞窟に潜り、遭難、落盤など万が一ということもありますので、それならば、一時的に人を雇おうということで今回依頼を出せさて頂いた所存です」
「わかりました。では我々はお供として見守り、何かしらの危機があれば、その際適切な対応をすればいい訳ですね。あ、もちろん可能なことは手伝いますけれども」
「はい。それで十分です。基本は私が行いますので、みなさんはレジャーな気分でお越しください」
そう言われてしまうともう断る理由はないかな。あとはみんなの考え次第。
「僕はもう懸念事項はなくなったけど」三人の顔を見回す。
「大丈夫」「問題ないよ」「私も」と各々返答が来る。
「それではお願いします」ということで僕たちは氷処ケビスイからの依頼を受けることにした。
キヌモアさんも「こちらこそお願い致します」と言ってからホッとした表情になり肩の力が抜けた感じだった。その後、氷のおかわりを勧められたが丁重にお断りをした。
次の日 午前八時
シャヌラの北西部に集合。特に大きな準備もないのですぐにボンツ山の洞窟へと向かうことになった。
本日もあいも変わらず曇天な空模様。小雨が振っており、パタパタとレインコートに落ちてくる。
「今日だけでも晴れれば良かったですね」ぼっさんが歩きながら天候の話題をキヌモアさんに振る。
「この季節は仕方ないですねー。そして雨季が過ぎたら暑くなりますので、私たちも忙しくなりますよ」
「あぁ。だから今のこの時期に新たな氷探しをしようとしてたんですね」
「本当はもっと早めに動いてれば良かったんですけど。ついつい先延ばしで今になってしまいました」
「冬は氷処の人たちは何をしているんですか?」うにやんが質問する。
「対して変わらないですよ。洞窟から氷を運んで、各店舗に配る。多少扱う量が少なくはなりますけど……」
「冬であれば洞窟に取りに行かなくても町の中で凍らせば済むとかはないのです?」僕も質問。
「うーん。シャヌラでは気温が大きく下がることはないですので、稀に霜が降りて水面が凍るぐらいですね。ですので氷塊を作るのには不向きなんです。それに洞窟の氷は湧き水で作られますので」
「なるほどです。水道水で作るよりかは湧き水の方が美味しそうですもんね」
「そうなんです」語気が強くなるキヌモアさん。
やはり職業柄氷のことになるとテンションが上がるみたいだ。
「でもこのような雨が続くなか、依頼を受けて頂いて助かりました」目を細めるキヌモアさん。
「いえいえ。私たちも先立つものが不足していますので」ぼっさんが反応する。
「このような案件を受けるほどにお困りなのですか?」
「あー。先日、狩処ポナモザで討伐依頼をお願いしまして、お金がなくなってしまったんですよ」
「なるほど。何を討伐したんです?」
僕たちの方をみるぼっさん。
「別に言っても構わないけど」僕が無言の顔に答える。
「ドロールドラゴンを……」
「えっ! ドラゴンですかっ! すごいじゃないですか」目を見開くキヌモアさん。
「いやー。すごいのは討伐をした人ですよ」
「いやでも。ドラゴンを討伐してもらうにも大金が必要だとは聞いたことがありますよ」
「それは私たちのネゴシエーションによって割安で受けてくれましたので」
「へぇそんなこともできるのですね。しかしなぜドラゴン討伐を依頼したのですか? 鱗や肉が必要だったとか?」キヌモアさんは興味津々だ。
「えっ。あぁぁ」と会話のキャッチボールの球を落とすぼっさん。
「趣味です」おんちゃんがボールを拾いあげた。




