洞窟-1
「笑うなんて失礼だよ。おんちゃん」女性が自分の席に戻るのを確認してうにやんは発言する。
「ごめん。でもさ普通お茶とお菓子が置かれると思うじゃん」まだ笑いを引きずっているおんちゃん。
「まぁ自分たちの主力商品を出すのも普通の流れではあるよね」僕は氷を一つ指で摘み口の中に入れる。
うん。普通の氷だ。
「甘くもなければ、しょっぱくもないね」ぼっさんも口に含み感想を言う。
僕らがポリボリゴリと氷を食べていると「お待たせしました」と声が聞こえた。
発信源の方を振り向くと、ショートで赤橙色の髪をした二十代前半ぐらいの女性が立っていた。
服装は白地に水色のストライプが入ったシャツに、スキニーデニム、オレンジ色の靴下、焦げ茶のブーツ、それに赤の腕時計をしている。
氷のイメージとは対称的な佇まいだ。
我々は素早く立ち上がり挨拶をする。
「初めましてキヌモア・クブカです」
と自己紹介していただき、僕らも順番に名乗った。
それからみな席に着き依頼の話を進めることになる。
「えーと、まずは洞窟探索の目的ですが、私たち氷処ギネスイは氷を各料理店、食品店などに提供をしています」
相槌を打つ我々。
「勿論一般の方々にも販売はしていますよ」
相槌を打つ我々。
「現在はある一つの洞窟から氷を仕入れておりまして、他の洞窟からも氷を手に入れるようにできないかと考えているところです」
「現在使用している洞窟の氷が無くなりそうなんですか?」質問するぼっさん。
「そういうことではないですね。幸い毎年安定した氷が採取できています。しかし、何かしらの変化で氷が取れなくなってしまう可能性がありますので、それを避けるためにもう一つ供給元を作っておこうというのが我々の考えです」
「理解しました。それで他の洞窟、今回探索する洞窟はもう決まっているのですか?」
「はい。北西の山の麓にありますので、そこで氷を探します」
「もしかしてシルム山じゃない?」おんちゃんが僕に聞く。
シルム山は以前カラルルさんの依頼でエルミア鉱石を採取しに行った場所である。
「いえ。そんなに遠くはないです。シャヌラを出て歩いて三〇分ぐらいのボンツ山です。もちろんシルム山でも見つけることはできるかもしれませんが、遠いと不便ですので、なるべく近場が望ましいですね」
なるほどっと顎を下げる。
「説明はこれだけなんですが、何か質問ありますか?」僕たちを見回すキヌモアさん。
「洞窟内は魔物がいるのですか?」うにやんが挙手をする。
「以前軽く潜った人の話によれば、居なかったとは聞いてますが、もしかしたら奥に行けばいるかもしれません」
うーん。悩んでしまう。僕たちは正直惰弱ではあるので魔物に出くわすと何もできない気がする。しかし、攻撃的な魔物とは限らないのか、こちらに無関心なものもいれば、温厚なものもいる。それは今までの経験から分かっている。…………。けれども、前回のドロールドラゴンでの件があるので、少し敏感になってしまう。
「町に近いですので、よほど危険な魔物や野生動物は居ないとは思いますが……」キヌモアさんは僕の悩んでいる表情を気にしているのか情報を付け加える。「それに魔物が出てきたとしても私が魔法で対処しますので」
おっ。
「キヌモアさんも魔法が使えるのですね」うにやんが続けて反応する。
「ご覧にいれますか?」
「是非にも」
うにやんがお願いするとキヌモアさんはポケットからスス焦げた手袋を取り出し右手に嵌めた。そして右腕を前に出すと同時に手全体が火に包まれ、その燃ゆる炎は徐々に形を変え収縮していき手のひらサイズになる。キヌモアさんはその火の玉をゴムボールのようにモミモミして、それから強く握り消してしまう。手を開くと小さく煙が立ち昇り、キヌモアさんの髪色もなんだか明るくなった気がした。
おおーっと僕らは拍手をして、キヌモアさんも微笑して照れくさそうにする。
「本当に弾力性のあるボールみたいでした」うにやんがコメント。
「小さな太陽を弄んでいるかのようでした」おんちゃんの小洒落た感想。
「なるほど。それを魔物に投げつけて対処するのですね」ぼっさんの見解。
「キヌモアさんも一緒に洞窟を探索をするのであれば、僕たちは不要だと思うのですが……」僕の疑問。




