雨季
シャヌラの町は雨季に入り、僕らは生活費を求めて依頼処ギネガラへ入った。
昼間であるが雨のため壁のランプが灯されており、いつもと雰囲気が違う。
この天気ではあるので屋外でのお勤めはしたくない。そのため屋内でできる依頼を掲示板で探しているところだ。
「良さげな依頼がないねー」うにやんは下の方を見ている。
「うーん。どれも外で出来ること、外でしか出来ないことばかりだね」僕は上を見ている。
「今日も睦まじくガラスの向こうを覗いてるね」ギネガラ職員のアンネリスさんがモップ掛けをしながら話しかけてくる。
「こんにちわ」ぼっさんが挨拶する。「雨に打たれない依頼を探しているのですが」
「この時期はねー。すぐ無くなっちゃうよ。そういう依頼は」
「そうなんですねー」
「普段狩処ポナモザで依頼を請け負っている人たちもこっちに流れてくるから、余計に競争率が高くなるんだよ」
「あぁなるほど。野生動物や魔物の狩りも基本は外ですからね」
「そういうこと。みんな思考は似たり寄ったり」肩を竦めるアンネリスさん。「あ、これなんてどう?」モップの柄を使い掲示板を指し示す。
「洞窟の探索を手伝ってください。 氷処ケビスイ 担当キヌモア・クブカ」僕は依頼書を読み上げる。
「洞窟の中なら雨風に晒されないで済むね」おんちゃんが口を開ける。
「道中だけ我慢すればいいのか」ぼっさんも少し前向きだ。
「他に良さげなものがないからこれにしようよ」今日は良さげを多用するうにやん。
「じゃあこれにしようか。シキさんも大丈夫?」ぼっさんが聞いてくる。
「いいよ」
「では受付へお越しくださーい」ギネガラ内は薄暗いがアンネリスさんは明るい。
僕らは小慣れたルーチンで受付を済ませ、氷処ケビスイの住所が記された依頼書を受け取った。
「氷処って何だろうね」うにやんは傘を揺らしている。
「そりゃ氷を扱っているお店でしょ」ぼっさんが水溜りをヒョイっと避ける。
「かき氷専門店ってこと?」おんちゃんの靴にぼっさんが撥ねた水が掛かる。
「うーん。もしかしたらスケートリンクだったりして」僕はぼっさんのジャンプを見て閃く。
「それはないでしょ。スケートリンク経営者が洞窟に何の用なの?」後ろを向いてくるぼっさん。
「洞窟内にスケートリンクを作るんだよ。幻想的な景色を堪能しながら滑る興奮。人気が出ると思うなー。氷処の人は良いところに目をつけたね」
「んんー。まぁそれなら一回は経験してみたいね」ぼっさんが僕の妄想を肯定してくれた。
人が少ない雨通りを歩き続け我らは氷処ケビスイに到着。
建物は木造でギネガラぐらいの幅ではあるが、奥行きが結構あるように見える。さらに建物の上には氷をモチーフとした大きなオブジェクトが飾ってあるが、雨風に晒され朽ちているのが目立つ。
「スケートリンク施設ではなさそうだね」うにやんが氷のオブジェクトを見上げている。
「うん。とりあえず入ってみよう」僕はみなに促す。
傘を傘立てに差し込み、ケビスイの扉を引く。開かない。押す。開いた。
建物内は美空色の壁紙が貼られており、氷っぽさを感じる。
「こんにちわー」
僕の声に反応し、手前のデスクに座っていた女性がカウンターに近づいてくる。他には10人ほど机に向かい仕事をしている。
「こんにちわ。氷の注文ですか?」
「……えーと。買いにきたのではなくて」僕はうにやんを見る。
うにやんはツギハギだらけのショルダーバッグから依頼書を取り出した。
「ギネガラにて御社の依頼を引き受けた者ですが」そのまま説明してくれるうにやん。
「ああ。キヌモアさんの」と女性は言いつつ「呼んできますのでお待ちください」と部屋奥の金属扉の中へと入って行った。
「金庫かな?」おんちゃんが囁く。
「氷を保管する場所でしょ」
「そっか。そうだよね」
僕らは壁に掛かった孤島の絵画や隅に置いてある観葉植物を見ながら金属の扉が開くのを待った。
そして重そうな扉が解放され、先ほどの女性が小走りで近づいてくる。
「キヌモアさんはもう少しできますので、あちらに座ってお待ちください」と入り口左手にある長椅子へと案内してくれる。
それから女性は別の小部屋に入りトレーを持って戻ってくる。
「こちらでもどうぞ。つまらないものですが」とお皿をローテーブルの上に置く。
ふふっと笑いが溢れるおんちゃん。
皿上には直方体にカットされた氷が乗っていた。




