ドラゴン-13
ドロールドラゴンは向かってくる相手に唾を射出するが、右、左と避けるミラルエさん。
ソルドさんが矢を放ち眼下にいるトカゲもどきの顔側面右に射当てるが鱗は硬く貫くことはできない。
ドロールドラゴンが崖上のソルドさんを睨みつけている隙にミラルエさんが一番後ろ、四番目の左脚へと潜り込んだ。
金切り声をあげるドロールドラゴン
こぼれ落ちる潤沢な生唾
尾を振り、下半身を大きく揺り動かす
四番目の左脚は動かない
動かせない
紅汁が脚をつたい足元に広がる
刹那
竜の啼泣
四番目の右脚から噴出
生きている足の地団駄
鱗片に降り注ぐ火球と矢
三番目の足で立ち上がり
崖上を狙う
瞬刻
右倒する巨体
三番目の右脚の事切れ
ここでミラルエさんが脚の隙間から出てきた。
両手を使い三本と四本の指を立てながらこちらに走ってくる。
「おんちゃん、三番と四番ね」僕は双眼鏡を覗きながら声に出す。
おんちゃんは短い両刃剣と幅広な片刃剣を持ちミラルエさんのところへと飛び出していった。
剣を手渡されたミラルエさんは起き上がったドラゴンへとトンボ返りする。
前足の振りかぶりを潜り抜け再び脚の下へと入っていった。
相手は三本の脚が動かせない状態であり、動きも鈍くなっているみたいだ。
ここからの展開は早く、ソルドさんやメーネさんの援護を受けながら、ミラルエさんは着実に一本ずつ脚の筋肉または腱もしくは両方を切り裂いていった。
手足を縛られたかのように動けなくなるドロールドラゴン。瞼も閉じてしまう。
ソルドさんは弓を引き絞った状態で止まり、メーネさんも崖上から様子を見ている。
ミラルエさんは折れた剣を手放しこちらへと走ってくる。特に合図は無い。
そして
追いかけられる
ドロールドラゴンに
蛇のように体を這わせてきた
ミラルエさんは横に脱し瞬時のところで相手を回避
しかし
進路変更をしない蛇もどき
岩陰に潜む別の獲物を求めて
直進してくる
僕たちは人の気配を察したフナムシのように四散した。
が、駄目だった。
どこで見誤ったのだろうか……。
どこで間違えてしまったのだろうか……。
もっと早く逃げるべきだった?
もっとドロールドラゴンのことを知るべきだった?
もっと他の作戦を練るべきだった?
「…………」
そもそもドロールドラゴンを狩るべきではなかったのかもしれない。
見るだけにしておけばよかったのだ。
「…………」
いや、見るだけでも危険性は孕んでしまうか。
つまり
僕が
僕が……
あの雨の日に
言わなければよかったのか
《ドラゴンを見たい》
と
振り向くとドロールドラゴンの開かれた口が視界を埋め尽くしていた。




