ドラゴン-12
午後〇時四九分。
何回かの休憩を挟みながら馬車での目的地へ到着した。
見晴らしの良い山道であり、遠くには山々が屹立し、奥に見える山は雪を被っている。
事前にミラルエさんから長袖を着てくるのが良いとアドバイスがあり、みんなロングTシャツや長袖シャツを着ているので肌寒さを感じることは無かった。涼しいくらいだ。
馬車は道外れに移動させシュウムさんと馬二頭は待機。我々は必要な荷物だけ持参しトレッキングを始めた。
「この先がドロールドラゴンの生息地ですか?」ぼっさんが干し肉を齧りながらミラルエさんに質問する。
「いえ、生息地というより一匹だけ住み着いてる感じですね。本来であればもっと北東の山々に棲んでいるのですが、とある個体だけこちらに移動してきたみたいです」
「そんなこともあるのですね」
「人間でも人里離れて暮らす方もいますからね」
「確かに」
「で、ポナモザ職員で有翼の人たちがいて、その方たちが町の周りを定期的に巡回しているんです。そして一ヶ月ほど前にこの地点でドロールドラゴンが住み着いたことを発見して、それ以来私たちは警戒をしていたんです。幸いにもこの場所から大きく動くことはなかったのですが、いつシャヌラ方面へ移動してくるか分かりませんので、ポナモザ内でもどこかのタイミングで退治をしようと話し合っていましたね」
「じゃあ、僕たちの依頼は丁度よかったのではないですか?」ショルダーバッグから干し芋を取り出す僕。
「そうですね。私にもお小遣いが入りますし」ミラルエさんが微笑む。
「…………」
我々はソリで遊びたくなる傾斜を上がり下がりして、草地から荒野へと入っていく。
荒野を進んでいくと崖にたどり着き、その下を覗くと巨大な生き物が横になっていた。
その生物はトカゲのような姿形をしており、首から尻尾の付け根にかけて等間隔で足が左右に四本ずつ付いている。昆布茶色の鱗で覆われた体に、ジャガイモの芽のようなツノを二本後頭部から突出している。
「あれが、ドロールドラゴン……」うにやんが口ずさむ。
「情報によれば全長約一八メートル」ミラルエさんが続く。
「おんちゃんの十倍ですか……。十おんちゃんですね」僕は思ったことを口走る。
「それでは事前に話していた通りここからは二手に別れましょ」ミラルエさんはみんなに指示する。
僕の言葉は虚空をつかんだ。
ソルドさんとメーネさんは崖に沿って進み、残りの僕ら五人はドロールドラゴンに気づかれないように下へと続く道を歩いていった。
崖下の大きな岩の元へと到着し、離れた先には小さいがドロールドラゴンのお顔が正面で見える。
おんちゃんは背負っていたキャディバッグをゆっくりと下ろし、中の武器を静かに出す。僕とうにやんと、ぼっさんは双眼鏡を手にして岩陰からドロールドラゴンと崖の上にいるソルドさん、メーネさんの様子を確認。
僕たちに対して右手の崖にメーネさん、左手の崖にソルドさんが待機している。
そしてソルドさんとメーネさんが準備完了の合図で右手を上げた。メーネさんの手には道中で拾った木の棒がある。今回はあれを使って火の球を出すのだろう。
「二人とも準備できたとのことです」ぼっさんがミラルエさんに報告する。
ミラルエさんは槍の穂鞘を外し、中間サイズの両刃剣を鞘から抜く。
深呼吸をしてから「それでは行ってきます」とミラルエさんは僕たちの方を見る。
僕らは右手の親指を上に突き出した。
ミラルエさんが岩から出て行くと、既に気づいていたのか眠れる竜は瞼を開け琥珀色の瞳を見せてきた。
顔を上げ、後ろ足を使い上半身を起こし、頬を膨らませ、口を尖らせ、唾液を飛ばしてくる。
剣を地面に刺し、両手で槍を持つミラルエさん。
扇風機の羽のように槍を回転させて飛んできた唾を弾く。
弾かれた液体はイルカショーの水しぶきのように我々に降り注ぐ。
くさい。
先日のウルフレームとの戦いと今回のこれで分かったことがある。ミラルエさんは戦闘時、わざと僕らに間接的な被害を与えているのではないかと……。
ウルフレームを吹き飛ばす際、余計に体を回して僕たちが寝そべっていた場所に飛ばしてきたし。今回はドラゴンが口から出してきた液体を避けるだけでも良かったはずなのに槍で受け流すし。
この件に関して後から問い詰めても、カッコいいから槍を回したとか言われて躱されるのが落ちだろう。
そして、演出のために使われた槍は虚しく地面に刺さっており、持ち主は剣一本でドロールドラゴンの元へと駆けて行った。




