ドラゴン-10
「こちらのお二人が以前伝えてくれた方達ですね」馬車に揺られながらミラルエさんは隣に座っている僕に話し掛ける。
「そうです。ソルドさんとメーネさんです」
対面席に並んで座っている二人は虚ろな目で軽く会釈する。大分眠そうだがソルドさんはいつも瞼が閉じ気味ではあるので判断が難しい。ピィノくんはメーネさんの頭の上に乗っかり窓から外の景色を眺めている。
ミラルエさんは生気が感じられない二人を見て無言になる。
「ソルドさんは狩処ポナモザに出入りしていると思うのですがご存知ないですか?」
「すみませんが面識は無いですね。私も毎日ポナモザに居る訳ではないので……」
「左様ですか……」
「でも弓や魔法での援護は助かります」
ミラルエさんの気遣いが身に沁みる。
「…………」
静けさに満たされる車内。砂道を歩く馬の足音がみんなの眠気を増幅させる。
「そういえばこの馬車、椅子にはクッションがあり、車輪にもゴムやサスペンションが付いてますけど、他のもこんなものなんですか?」僕の隣に座っているぼっさんが顔を出しミラルエさんに質問する。
「うーん。町の駅馬車でもピンキリなので一概には言えないけど、でもこの馬車はそれらに比べれば良い方ですね。ポナモザ所有なので」
「なるほど。ポナモザは人も多いだけでなく馬車も持っているんですね」
「昔は他から手配していたみたい。でも緊急の案件が入ってくるとすぐに動けなくて不便だからという理由で馬車ごと持つようになったという経緯があるとのこと。あ、ちなみに手綱を握っている人はポナモザ職員のシュウムさんね」
ミラルエさんの声が聞こえたのか、窓越しに後ろ姿で右手を上げるシュウムさん。
「趣味は遺跡巡り」
へぇーと皆の乾いた声が車内に響く。ゲームでも遺跡はよく目にするのだが、どうやら僕たちの心にはヒットしないみたいだ。なぜだろう。動かないから? 単調な感じがするから? 過去に興味が無いから? 様々な角度で自身を探ってみるが納得する答えは見つからなかった。女の子たちが遺跡を巡る日常系アニメが存在し視聴していれば多少は興味が湧いたのかもしれない。
「遺跡ということはお宝を探し当てるのですか?」ソルドさんの隣にいるうにやんが話を広げていく。
「んー。どうかなー。眺めるだけって聞いたけど」
そうですかと反応し身を引くうにやん。だけど本人は遺跡ネタに蕾を咲かせたことで満足している様子。
しかし遺跡の花は満開になることはなく、短い一生を終えた。
目的地には午後一時頃に着くらしく、そこまでにはまだまだ長い時間がある。無理して会話をしなくてもそのうち自然と誰かが喋り始めるだろう。
メーネさんは御者側の壁にもたれながら眠り、ピィノくんは器用にも乗る位置を変えて景色を凝視し続けている。うにやんの隣にいるおんちゃんも静かだと思ったらすでに寝ていた。僕も二人を倣い目を瞑り休憩箇所まで寝ることにした。
一時間後、湖のほとりへと到着し休憩をすることに。まだ町からそんなに離れてはいないので朝から釣りをしている人たちが散見される。休憩所にはテーブルや御手洗が設置されているので、ここで朝食を取る流れへ。
僕はウキウキで干し芋を齧ろうとすると「ファレサさんからです」とソルドさんがテーブルにカゴを置いた。
蓋を開けさせてもらうと、中には野菜サンドとハムたまごサンドがきゅうきゅうに詰め込まれていた。
「みなさんによろしくと伝言を預かっています」続けざまに喋るソルドさん。
《よろしく》にはこの湖よりも深い意味がありそうだ。エルミア鉱石採集依頼時にソルドさんが作った昼食をみんなで褒めたから気にしているかもしれない。今度会ったときのためにしっかりと味を覚えておき、クールなグルメレポートを言えるようにしておかないと……。
「それと」とさらに口を開くソルドさん。
滑舌の良く低い声で耳福である。
「シキさん達四人へさらに伝言ですが、とりわけ感想は求めていません……と」
「…………」
これは手土産が必要だ。




