ドラゴン-3
剣術士ミラルエさんからの自己紹介が終わり一拍間がおかれてから周りに拍手が起こる。ポナモザに来ていた人たちも職員の人たちも手を叩いている。僕たちも空気を読める四人組ではあるので音を鳴らした。
自然と拍手もフェードアウトしていきご満悦なミラルエさんも姿勢を正す。
「まぁこれだけでは私が本当に腕が立つのかは分からないですよね」
相槌を打つ我々。
「…………。あなたたち今から時間は空いてますか?」
「空いてますけど……」
「それではこれから私の実力を見せてあげます」
ミラルエさんは言葉を発してから事務所のさらに奥の部屋へ入り細長い物体を引きずってきた。
受付横の扉からミラルエさんと物が出てくるとそれは鞘に収まった剣だとすぐに理解できた。また引きずっているように見えていたが、実際には鞘に金属とゴムで構成された車輪が二つ付いており転がしていたのだ。さらに鞘には取っ手が付いており持ち運び便利な仕様となっている。果たしてこの鞘は商品として売られているのか、はたまたミラルエさんの手により魔改造されたものなのかそれは謎だ。
「じゃあ行きましょうか」今から一緒に海外出張へ旅経つスーツケースを転がす同僚のような雰囲気でミラルエさんは僕たちの色々なモヤモヤとした疑問を断ち切る。
なるほど剣術使いだからこういう有耶無耶な空気を一刀両断するのも得意なのね。と考えながらも僕たちはミラルエさんの後へと続く。
すみませんと軽く謝りながらミラルエさんはキャスター付きの鞘をポナモザの外へと出し、僕らはシャヌラの町を南へと進んで行く。
「聞きそびれてしまいましたが、それでこれから何処に何をしに行くのでしょう?」
「あぁごめんなさい。これから町の南の草原へ行きウルフレームをやっつけます」コロコロと鞘を転がし前を向きながら返答をする。「あ、ウルフレームって知ってますか?」こちらに顔を向けるミラルエさん。
「はい。木製の身体に張りぼてでさらにマントを羽織っている狼に似た魔物ですよね」
「そうですそうです。あなた方意外に魔物に詳しいですね」ミラルエさんは少し頬を緩める。
「いえ、魔物図鑑を適当に見たぐらいですよ」
「ううん。それだけでも十分です。興味ない人は全然知らないですからね。町の近隣に魔物が出没して私たちが注意喚起しても何それ?って感じでーーー」口を開けた状態で喋るのを止めてしまう。
「? どうしました?」
「愚痴っぽくなりそうだったので……我慢しました。私エライ」空いてる手でガッツポーズを作る。
カワイイ。
「愚痴でも私たちはこの世界のことを聞けて嬉しいですよ」ぼっさんの紳士パワーが溢れ出す。
「そうですか〜」再び頬を緩めるミラルエさん。「……この世界?」と小首を傾ける。
僕たちは眠りながらでも話せるように上達した説明で自分達の身を明かした。
「へぇー変わった経歴をお持ちなんですね。面白いと思います」うんうんと首を縦に振る。
この感触。恐らく信じていないだろうな。そういえば僕たちの身体もシャヌラの町で買ったもののみで包まれているから、もうこの世界の住人として馴染んできているのかも。うにやんも今日はこもかTシャツを着ていないし。
一応確認のため後方へ振り向くと、うにやんと目が合い小さく手を振ってくれる。僕も振り返してから向き直り、今日はねずみ色のポロシャツを着ていたという情報を持ち帰った。
「何の話でしたっけ?」ミラルエさんが頭上に?を浮かべる。
「ウルフレームですよ」教えるぼっさん。
「そうそう。そのウルフレームの群れが町に向かって北上してるという情報が入ったから、今日は私が駆除しに行く予定だったんです。それであなた方に実力を見せるのにも丁度良いと思った、というところでしょうか」
「この剣で倒すんですよね?」僕は鞘に収まっている長い剣をグリップから剣先の方まで見流す。
「勿論」
この剣の刀身はミラルエさんの身長を優に超えており、刃長だけでもおんちゃんの身長以上あると思われる。ちなみにおんちゃんの身長は一八〇センチメートル程だ。ちなみちなみにぼっさんが一七〇センチ、僕が一六五センチ、うにやんが一六〇センチあたりだ。ミラルエさんはうにやんよりもやや低いので一五五センチぐらいだと推測できる。
素人考えだが、狼型の魔物であるなら素早いはずなので、おお振りでモーションが大きくなってしまう武器よりも軽くて短いまたは少し長いぐらいの刃物が戦いとして合っているのではと思ってしまう。しかし、ミラルエさんもプロではあるので何か考えがあるのだろうと思い黙っておく。
「狼相手ならもっと短い武器の方が良くないですか?」
うんうん。そういうところがおんちゃんの売りだと思います。




