メーネ-5
次の日
「お待たせしました」メーネさんが集合場所の川辺へと到着した。
メーネさんは水玉模様のTシャツに紺色のスキニー、黒白のスニーカーを履き、さらに髪は後ろで縛りポニーテールにしている。さらにさらに今日は最初から少し笑顔だ。やはりバーベキューを楽しみにしていたのだろうか。
「いえいえ。時間通りです。僕らが早めに到着してしまいました」
ここはシャヌラの町の東側に位置し、住宅街からも離れている場所だ。
「その方達がお友達ですか?」メーネさんが我々を見渡す。
「はい。えーっと。こちらからうにやん」うにやんは会釈する。
「で、ぼっさん」ニコッとするぼっさん。
「そして、カラルルさんね」カラルルさんはよろしくお願いしますと丁寧に挨拶。
カラルルさんは白のTシャツにデニムのオーバーオールを着ている。靴は青色のスニーカーだ。ちなみに僕たちの服装はいつもとたいして変わらない。適当なTシャツとズボンを着ている。
「御三方も別の世界から?」
「いえ、カラルルさんだけこの世界出身ですよ」
「そうなんですね。あ、申し遅れました、メーネ・オールトベークです」
「そちらの頭の上の方は?」ぼっさんが質問する。
「この子はピィノくんです」ピィノくんは頭上に鎮座しており、落ちないようにメーネさんの顎下に触手を伸ばしている。
「手を振ると反応してくれるよ」僕はぼっさんにアドバイスする。
ぼっさんがピィノくんに向け軽く手を挙げて左右させると、ピィノくんは昨日と同様に新たな触手を身体側面から伸ばしてプルンプルンと大げさに上下させる。
「おぉ」ぼっさんの顔つきが少し柔らかくなった。
うにやんとカラルルさんも同じように手を振りピィノくんと挨拶をして癒される。
「早速、手続きをしに行きましょうか」
メーネさんに案内され川辺の道沿いにある建物へ。
向かった先はシャヌラBBQというお店であり、ここで料金を支払えば川辺でバーベキューができるみたいだ。僕たちが集合していたところのすぐ近くに会場があり、すでに複数の利用客グループがいた。グリルやウッドテーブル、チェアが用意されており、ここでお金を支払い、残りの必要なもの食材、炭、道具などを揃える方式だ。
早々にメーネさんは受付を済ませ、僕たちは店員さんから渡されたものを川辺の会場へと運んだ。
メーネさんとカラルルさんはお互いに談笑しながら運んでいたので、すでに打ち解けているようだ。
「あのような美人なお嬢さんと一緒に一つグリルのもとお肉を食べられるなんて良いのだろうか。しかも無料」ぼっさんが軍手を装備してグリルに炭を並べながら呟く。
「良いんだよ。それがメーネさんの願いなんだから」僕はぼっさんの手の動きを見ている。
「それにしても不思議な生き物を連れているんだね」うにやんはぼっさんの手つきを見ている。
「ディクピードっていう魔物らしいよ」
「ああ、魔物図鑑にも載ってた」うにやんは覚えていたようだ。
「そうそう」
「そうなんだ。俺は全然覚えてないや。よし、これぐらいで良いんじゃない」ぼっさんは一人で誰にも頼らず炭を並びきった。「マッチってある?」
「ボクは持ってないよ」うにやんは僕の方を見る。
僕は首を横に振る。
「すみませーん。そっちにマッチありますか?」ぼっさんが食器や道具の準備をしている女性陣に声を掛ける。
店員に渡された荷物の中を探す二人。「無いですねー。店員さんから貰ってきますよー」とカラルルさんが声を返してくる。
「いえ、ここは私が」と小さく手を上げるメーネさん。
その手の先にはフォークが握られている。
「……じゃあお願いします」ぼっさんが答える。
メーネさんはグリルに近づいてから腕を下ろしフォークを炭に向ける。フォークの先から火が咲き、徐々に大きくなる。そしておにぎりサイズになった火の球は重力に引かれ炭の中へと落ちていった。
「…………」
「魔法だっ!」
「魔法だっ!」
「魔法だっ!」
「魔法だっ!」
ぼっさん、うにやん、僕、カラルルさんの順番でメーネさんの手元を指差しながら驚声を放つ。
僕らの言動を見て雷が鳴っている時のアヒルのような顔をするメーネさん。「もしかして魔法を見るの初めてなんですか?」
頷く僕たち。
「?」「あれ、カラルルさんも初めてなんですか?」僕はカラルルさんに顔を向ける。
「いえ。私は見たことあります。流れで、ですよ」にっこりするカラルルさん。




