メーネ-4
「…………」
追加のコーヒーをテーブルの上に置き、対面のソファに座るメーネさん。
「はい。そのために依頼をお願いしたんですが……。そしてあなた、えーと」
僕は名前を伝えた。
「シキさんが来てくれたのでは?」
「……仰る通りです」僕はポケットから依頼書を再度出す。「では本題に入りましょうか」淹れたばかりのコーヒーを頂く。うん。苦い。
「実は私二ヶ月前にこのシャヌラの町に越して来たんです。元は王都にいました」
「あ、そうなんですね。じゃあ、ピィノくんとの出会いは王都に居た頃なんですね」ピィノくんは僕の隣で寝ている。
「そうです。そして、せっかくだから王都では出来ないことをしてみたいと思いまして」
「それでバーベキューを……」
頷くメーネさん。
「シャヌラの町では近場にバーベキューをする場所があると聞きまして、でも私はここに住んで日が浅く、友人ましてや知り合いもおりません」
僕はミルクピッチャーを手に取りカップに注ぐ。
「少し話の腰を折りますけど、今回の依頼の前に同じような内容の依頼を見たと知り合いから聞いたことがあるのですが、それはメーネさんとは別の人だったんでしょうか?」
「あぁー。多分私です。先月も依頼募集をしました」
「……応募が無かったのですか?」
「そうです。それと数日で依頼を取り消しました。なんだか不安になってしまいまして……。変な人が来たらどうしようっと」
ようやくメーネさんから人間味を感じる言葉が出てきた。いやまぁ淡白な感じも個性ではあり人間の一つの性格ではあるのだけれど、感情を言葉に出して貰うと何か親近感というか、そういうものがあるよね。
「自分で言うのもあれですが、僕も変わった人間だと思いますが……」
「えぇ。でも素直で良い人そうだと思いますよ」
うっ。また心の太鼓がドンドコしてきてしまう。
「声掛け通りソファに座り立ちしてくれましたし」
あぁ。なるほど、あの屈伸運動はそういう意味だったのね。
「そういえば先ほどバーベキューをする場所があると言ってましたけど、そこでは必要な道具は揃っているんですか?」
「……揃っているらしいですよ。食材も含めて。お金さえ持っていけば良いと聞きましたけど?」最後に僕を見て首を傾げるメーネさん。
僕はメーネさんの疑問を解消するために、他の世界から来たことやシャヌラの町に住んで間も無いことを伝えた。
「そうだったんですね。通りで独特な言動をする人だと思いました。納得です」メーネさんは内心驚いているみたいだが、表情は変わらず。
「それじゃあ依頼通り人だけ集まれば出来るんですね。バーベキュー」僕は話を戻す。
「受けて頂けるんですかっ!?」前のめりになり少し声が大きくなるメーネさん。
「あ、はい。そのつもりです。人数なんですが、僕以外に三人友人を連れて行きますけど、それで良いですか?」
「三人も友達がいるんですかっ!?」目を見開くメーネさん。
段々と感情豊かになって来た。徐々にブーストされるタイプなのかもしれない。
「失礼しました。大丈夫です。ありがとうございます」
「では日にちはいつにしましょうか?」
「明日のお昼はどうでしょう。早めにしたいです」体の前で両手の握り拳をブンブン小さく振るメーネさん。しかし面持ちは変わらない。
「明日ですか……。それじゃあ後で一旦家に帰ってみんなに都合を聞いて来ますね。多分大丈夫だと思います」
「分かりましたっ!」
「それでは最後に報酬の件なんですけど……」
「あぁ」と声の大きさが元に戻るメーネさん。「報酬はバーバキューの代金を私が全額負担ということで如何でしょうか?」
「…………」
「良いですよ。僕たちも無料でバーベキューが堪能出来ると思えば、むしろお礼を述べるぐらいですから」
メーネさんは少し不安な様子を一変して、微笑みの表情を浮かべた。




